ヘイトフル・エイト (2015):映画短評
ヘイトフル・エイト (2015)ライター5人の平均評価: 4.4
一触即発の騙し合いと殺し合いを制するのは誰だ!?
現在のハリウッド映画界で恐らく唯一、好きなことを好きなだけやっても許されてしまうタランティーノ監督の新作は、真冬のロッジに閉じ込められた8人の巧妙な騙し合いを描く密室ミステリー型西部劇だ。
一見すると無駄話のように思える饒舌な会話の隅々に散りばめられた真実。誰もが本当の正体や目的を隠しながら、互いの腹を探っていく一触即発の緊張感。2時間40分を超える長尺を全く感じさせない面白さはタランティーノ映画の真骨頂だ。
「殺しが静かにやってくる」を彷彿とさせる白銀の世界、イタリア映画音楽の巨匠モリコーネの起用など、マカロニ・ウエスタンへのオマージュが満載。容赦ないバイオレンスも健在です。
『レサボア・ドッグス』からの進化に唸る
タランティーノ作品の魅力をひと言で言い表すのは毎度毎度、難しいのだが、あえて本作を語るなら騙し合いの妙、ということになる。
タランティーノらしい無駄話の多い会話は、どこに本音があるのかを巧みに多い隠し、“どんな真実が潜んでいるのか?”“誰が生き残るのか?”という興味を否応なしに引き付ける。
そういう意味では『レザボア・ドッグス』の進化系とも言えるが、憧れのモリコーネを引きずり出したオリジナルスコアや70ミリサイズのビジュアルの美しさも映え、大人びた雰囲気も宿る。160分以上の長尺を飽きさせず、一気に見せ切る点は、まさに『レザボア~』からの進化。俳優陣のアンサンブルも素晴らしい。
タランティーノのドSっぷりが止まらない168分!
さすがはタランティーノ。『ジャンゴ 繋がれざる者』に続く、西部劇にして『レザボア・ドッグス』的密室ミステリー。『遊星からの物体X』オマージュたっぷりな閉塞感のなか、たっぷり時間を使って、おなじみの会話劇が展開。『デス・プルーフ』以上に、ジラしまくった挙句、強引なトリック後に爆発する血祭り! お約束サミュエル・L・ジャクソンのお説教タイムへと続く。これまで以上にキュートな役をもらったゾーイ・ベルはもちろん、ある種『ブルックリン最終出口』オマージュといえるジェニファー・ジェイソン・リーにぶつけられる歪んだ愛。完全にドSなタランティーノからのドM信者へのプレゼントといえるだろう。
いい意味でも悪い意味でもタランティーノ節炸裂
60年代の西部劇にオマージュを捧げ、70mmアナモルレンズで撮影し、音楽はエンリオ・モリコーネ。しかもバイオレンスや流れる血、伏線とはいえ果てしない無駄話やレイシスト&ミソジニストな言動、ダークなユーモアがいつも以上に盛り込まれていて、全編「俺の好きなもの」でこさえた映画なのは一目瞭然。密室ミステリーと銘打つだけあって、8人の“憎むべき”男女が吹雪で山小屋に閉じ込められてからの緊張感の盛り上げ方はスリリングだし、観客を何度も驚かせてくれるのはさすがタランティーノ。タラ組おなじみのキャストに混じって頑張ったウォルトン・ゴギンズは今後も要注目だ。そうそう、長尺すぎるので万人向きじゃないかも。
騙りの醍醐味、語りの妙味
"騙り"の醍醐味。騙りとは、語ることであざむくこと、だますこと。もともとタランティーノ映画は、第1作から登場人物たちがしゃべりまくるのが身上だが、今回はその語りでストーリーを紡いでいく。吹雪の中山小屋にひとクセもふたクセもある人物たちを閉じ込めてしゃべらせまくり、語りの妙味もたっぷり味あわせてくれる。
しかも、ジャンルは西部劇、音楽は名匠エンニオ・モリコーネ、画面サイズも映画のリズムも、伝統を継承するクラシカルな王道路線。なるほど、もともとフィクションというもの醍醐味は、昔から語り手による語り口の面白さにあったのではないか。そんなことを再確認させてくれる。