セルフレス/覚醒した記憶 (2015):映画短評
セルフレス/覚醒した記憶 (2015)ライター3人の平均評価: 3.3
あの映画にもこの映画にも似過ぎです
余命幾ばくもない大物建築家の老人が、天才科学者率いる秘密組織によって新たな若い肉体を手に入れる。だが、遺伝子操作で作ったクローンだと説明されたその肉体は、実は妻子ある男性のものだった。
基本設定はフランケンハイマーの「セコンド」そのまんま。蘇った記憶を頼りに秘密組織の悪事を暴くという展開は、バーホーヴェンの「トータル・リコール」とソックリ。まあ、完全にオリジナルな映画なんて滅多にないとは思うが、しかしそれにしても似過ぎていることが引っかかる。
これまでの映像スタイルを封印しつつ、新たな表現の可能性に挑んだターセム・シン監督の意欲は買うものの、ストーリーもテーマも手垢がついた感は否めない。
映像美ではなく“語り”で勝負に出た映像派の新境地
ターセム作品というとマジカルな映像美が連想されるが、“あえてビジュアルを封印した”と語る彼の言葉どおり本作ではストーリーテリングで勝負。
格差社会を背景にした、モラル欠如のテクノロジーの暴走。そんなテーマを踏まえつつ、ターセムは主人公の奔走に焦点を絞る。元軍人というその設定は、国の英雄さえも貧困にあえぐ現実を写し出すだけでなく、格闘等のアクション面にも説得力を宿す。
冒頭の金ピカの室内(ドナルド・トランプのマンションで撮影)や、『ザ・セル』風の肉体転送施設の冷やかさなどターセム流映像美もあるが、NY、ニューオリンズ、セントルイスと舞台とともに変化する映像の色合いにむしろ妙味あり。
ターセム・シンがこれまでとは違う手法に挑む
「ザ・セル」「落下の王国」「インモータルズ 神々の戦い」「白雪姫と鏡の女王」と、一貫してド派手なVFX映像を得意としてきたターセム・シン監督が、今回はその手法を封印して新境地に挑む。まず、ニューオリンズのストリートの活気を映し出す生々しい映像と、そこで鳴っている音楽で、主人公が求めて入手した"生命力"の映像化に挑戦。そして、人間の身体に施す新技術も、外科手術ではなく磁気的電子的な操作によるという設定らしく、それを施術する空間を通常の病室のような硬質な金属やガラスではなく、柔らかな質感の半透明の厚手ビニールのような素材を中心に構築する。形を変えたターセム・シンのこだわりが続々。