スノーデン (2016):映画短評
スノーデン (2016)ライター4人の平均評価: 2.8
オリバー・ストーン作品にしては斬り込みの甘さが目立つ
米国政府の違法な監視プログラムを暴いて、世界に衝撃を与えたスノーデン事件を巨匠オリバー・ストーンが映画化。しかし案の定というか、メジャー・スタジオの協力は一切得られず、ドイツおよびフランスと共同出資のインディーズ映画となることに。それが今のハリウッドの現実だ。
アメリカの平均的な愛国青年がなぜ政府の最高機密を暴露するに至ったのか。時系列を整理しながら、その過程を丁寧に分かりやすく描く手腕はさすがオリバー・ストーンだが、しかしスノーデンの行為に肩入れし過ぎたせいか客観性に欠ける点も目立ち、それゆえ彼の心境の変化が唐突に感じられることも否めず。斬り込みが甘いという印象が残る。
反体制ヒーローながらも穏やかなギーク像が告発に現実味を与える
愛国者が国家の正体に幻滅し、反体制に転じて英雄視される。構造は、いかにもオリバー・ストーン映画だ。しかしジョゼフ・ゴードン=レヴィットが模倣するスノーデン像は穏やかなギークであるため熱は抑え気味で、政府の市民総監視という暴露にリアリティを与える。ロマンスを挿入して人間性を彫り込むが、それはストーンが嫌う「CIAヒーローもの」の劇的構成を反転させた通俗ドラマに向かう。彼の証言にのみ基づいた自伝的映画ゆえ、いくつもの疑問は生ずる。神格化のために施したデフォルメは多いだろう。それでも、ネットに繋げている以上、もはや個人情報は覗かれているという怒りと諦めを同時にもたらす作品であることは確かだ。
そこのあなた、CIAにケツの穴まで覗かれてますよ!
エドワード・スノーデンが愛国者か反逆者かの判断はわかれるが、この映画の彼は「いいね!」が欲しかっただけに思えた。CIAとNSAによる監視に嫌悪を抱きながらも何度も諜報機関に舞い戻ってストレスを溜めることを繰り返したのは、コンピュータの才能を発揮したかっただけにしか思えない。褒めてもらいたかった? 監督はスノーデンを英雄として描きたかったのかもしれないが、暴露を正当化しすぎた脚本に乗れず。ジョゼフ・ゴードン=レヴィットが声のトーンまで似せて好演してたのでもったいない。暴露のきっかけが恋人との私生活をのぞかれたせいって展開も「えっ!」って感じ。私はもうCIAにケツの穴まで覗かれてると覚悟してるよ。
じつはニコケイ案件!
本作も世界を震撼させたインタビューの舞台となった、香港ミラホテルから始まるが、さすがはオリバー・ストーン監督作。衝撃作ながら、観る人を選ぶドキュメンタリーだった『シチズンフォー スノーデンの暴露』と違い、ニュース映像を交えながら『攻殻機動隊』好きだったフツウの男のお仕事を時系列に沿って描く親切丁寧な構成で、ガッツリ離さない。芸達者なキャストが集まる中で、CIA時代のオタク教官を演じるニコラス・ケイジがまさかの好演。時代は違えど、『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』との共通点が見えることも、興味深いが、相変わらずオリエンタル色たっぷりな日本のシーンで、一気に困惑させてくれます。