武曲 MUKOKU (2017):映画短評
武曲 MUKOKU (2017)ライター3人の平均評価: 3.3
今後の日本映画の構図にも見えるクライマックス
夏の鎌倉の情景を捉えた、近藤龍人の撮影は素晴らしく、熊切和嘉の力強い演出とともに、豪雨の対決シーンに突入していく。そんな今後の日本映画の構図にも見える圧倒的なクライマックスを用意しながらも、アル中男・研吾とラッパー高校生・融のダブル主人公だった原作を脚色。父親の関係性による研吾の苦悩に重きを置いてしまったことで、融のキャラがボヤけた感アリ。“天才”の一言で片付けばいいかもしれないが、あの独特な“構え”についても触れられないのは、やはりモヤモヤする。ただ、わずかなシーンながら、しっかり映画女優の顔で登場する前田敦子にニンマリ。彼女のフェイドアウトの仕方も、明らかにおかしいのだが…。
夜の雨が強烈な光を放つ
夜の暴風雨の中、男2人が竹刀を持って向かい合うときの映像がいい。夜の暗さの中、斜めに吹き付けてくる大粒の雨が、強烈な光を放つ。まるで何もない暗闇に光が突き刺さってくるかのような、光の硬さ、光の強さ。闇と光のコントラスト。やがて叩きつける雨は、黒色になっていく。その中で、男たちは竹刀を打ち込むことにのみ集中し続けていき、ふと、ひとりの男が別の世界を垣間見る。その瞬間の鮮烈さ。
この一点を際立たせるために、その瞬間の周囲に、同じようなことが何度も繰り返されるかのように、さまざまな出来事が積み重ねられていくようにも見える。
綾野剛VS村上虹郎、その凄まじい演技バトルが圧巻!
厳し過ぎる父親に育てられ屈折してしまったアル中男と、死のトラウマと思春期のわだかまりを抱えたラッパー高校生が、剣道を介してぶつかり合うことで、己の心の暗い闇に潜む悪魔と対峙していく。ところどころ難解で分かりづらい展開も少なくないが、しかし同時に全編から溢れ出るキャスト&スタッフの猛烈な気迫に圧倒される作品だ。
中でも素晴らしいのは高校生役の村上虹郎。感受性豊かな繊細さと眼光鋭い凛々しさを兼ね備えたカリスマ性は、両親を超える大物になる予感をヒシヒシと感じさせる。さらには、まるで狂気のごとき綾野剛の凄まじい力演、『キセキ』の日本刀親父も真っ青な小林薫の鬼畜木刀親父ぶりも見応えたっぷり。