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ビジランテ (2017):映画短評

ビジランテ (2017)

2017年12月9日公開 125分

ビジランテ
(C) 2017「ビジランテ」製作委員会

ライター6人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4

くれい響

監督のさまざまな想いが先走る

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

『22年目の告白 私が殺人犯です』を経た、本作の流れは入江悠監督の挑戦が伺えるが、正直もう“地方都市”には戻ってきてほしくなかった感アリ。確かに『ミスティック・リバー』を意識した重厚な演出は見応えアリと言えなくもないが、河川敷などの“このシーンを撮りたい”、「ソープに沈めるぞ!」など“このセリフを言わせたい”といった監督の想いが先走って、脚本の前後の甘さが目立つこともしばしば。『火花』に続いて、改めて芸達者っぷりを感じさせる桐谷健太など、三兄弟の芝居はさすがだが、やっぱり謎の長男の行動など、リアリティを求めてしまうと、ちょっと厳しい。やはり、本気でエンタメを突き進んだ作品が観たいところだ。

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

衰退する日本の地方都市で、暴力と差別と憎悪の炎が燃え上がる

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 急速に衰退し荒廃していく日本の地方都市。その殺伐とした閉鎖的社会の裏側にフォーカスした映画は、近年ますます増える傾向にあると思うのだが、この『ビジランテ』もその一つだ。
 強権的な父親に虐げられ育った3兄弟。それぞれ大人になって違う道を歩んでいた彼らが、土地開発を巡る地方政治のドス黒い闇に引きずり込まれ、やがて狭い地域にくすぶる暴力と差別と憎悪の火種が互いに連鎖し燃え上がっていく。
 今の日本社会を覆いつくす暗澹たる空気を、臆することなく赤裸々に描いている点は評価できる。しかし、もはや経済発展など望めない地方社会にとって、生き残るための必要悪もあるはず。できればそこまで踏み込んで欲しかった。

この短評にはネタバレを含んでいます
清水 節

今年の日本映画ベストワンは入江悠オリジナル脚本監督作に決めた

清水 節 評価: ★★★★★ ★★★★★

 地方都市に凝縮された日本の苦悩。三兄弟は呪縛から逃れようともがいている。昭和の悪しき家父長制の後遺症から。蒼き闇夜の川に託される克服しきれないトラウマ。ショッピングモール建設の利権をめぐる政治の闇に、兄弟と周囲の生き様を交錯させ、外国人に対する排他的な現在を射る。相も変わらず欲望と暴力にまみれたこの国の暗部と格闘する入江悠のオリジナル脚本は、インディーズ魂と東映カラーの接合として絶妙だ。主演級3人のみならず、進んで闇を引き受ける篠田麻里子や、保守的な若者の危うさを体現する吉村界人の存在感が際立つ。題名は自警団のみならず、法を超えてでも醜悪さから身を守ろうと葛藤する三兄弟をも指すのだろう。

この短評にはネタバレを含んでいます
山縣みどり

閉鎖的な田舎の歪みや闇が痛い

山縣みどり 評価: ★★★★★ ★★★★★

失踪していた長男が父親の死後に弟二人の人生に波風を立てるだけなら純文学的。でもそこに閉鎖的な田舎の人間関係や暴力的な毒父という闇や歪みが加わり、地方出身の私にぐいぐい迫るリアル感が生まれた。篠田麻里子が演じる次男の妻の立ち居振る舞いなど、「いるいる」な印象で素晴らしい! 過剰な体罰も「よそ様のことだから」で見て見ぬ振りをしていたら、幼子の心がねじ曲がるのは必至。性格も生き方も正反対に見える長男と次男が破壊性と外面の良さという点では毒父にそっくりな大人に成長しているのが切ない。唯一の救いといえるのが桐谷健太演じる半グレの三男で、人を愛することができる彼の優しさは一服の清涼剤となる。

この短評にはネタバレを含んでいます
平沢 薫

この風景はきっと日本中のどこにでもある

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 都会でもなく田舎でもない、地方都市の風景が鮮烈だ。緊迫した物語の折々に、地方都市の佇まいが全画面に広がるのだが、その光景が、物語とは別にそれだけで完結する強度を持っている。かつ、きっと日本中のどこにでもある光景だろうと感じさせる普遍性を持っている。なので、その中で描かれる親と子の関係、3人兄弟の関係性のドラマが、画面に描かれる形は過激だが、その根本にあるものは、多かれ少なかれどんな家族にもある普遍的なものであることに気づかされる。そしてその風景の佇まいは、物語が大きく動いてもまったく変わらないように見える。その風景を映し出す画面の色調に、日本映画にありがちな墨っぽい燻みがないのがいい。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

今年の日本映画、最後の灼熱の大玉

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

『カラマーゾフの兄弟』を彷彿させる父と三兄弟の物語に、「いま」の問題を接続させる試み。サイタマ県の架空の市をグローバリゼーションの縮図とし、シェイクスピアや東映ヤクザ映画、『ミスティック・リバー』等を補強材とする。ザラザラした現実を神話的な構造美で映す政治論的ノワールの傑作を入江悠が放った。

ここで表象されているのはトランプ・安倍時代の風景だろう。土地と経済の結託が生む暴力性、利権政治や移民排斥を多層的に見つめる描き方。射程は長く広い。日本論に世界を覆う負の連鎖を組み込んだ『22年目の告白』、この10年の浮遊の総括『SR~マイクの細道~』と併せ、三作でワンセットとの捉え方も可能だと思う。

この短評にはネタバレを含んでいます
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