ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命 (2017):映画短評
ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命 (2017)ライター4人の平均評価: 3.3
博愛主義に突き動かされ、大勢のユダヤ人を救った夫婦の物語
第二次世界大戦下のポーランド。動物園を経営する夫婦が、ナチスドイツの占領軍の目を盗んでユダヤ人を匿い、彼らの逃亡を手助けする。実話を基にした作品だ。
物語は妻アントニーナの視点から描かれる。動物を家族の一員として愛する彼女にとって、命の尊さには動物も人間も人種の違いも一切関係がない。そんな揺るぎない博愛主義に突き動かされ、己の危険を顧みず見知らぬ他者を救う。それは、恐らく彼女にとって当たり前の行動だ。
サスペンスフルな展開も含めて非常に良く出来た作品。ただ、セリフが全てポーランド語訛りの英語であるのは、アメリカ映画ゆえに仕方ないとはいえ、少なからずリアリズムを削いでしまうことも否めない。
人間として真っ当な主人公のごとく、実話映画として真っ当な作り
冒頭から、爆撃によって街に逃げ出す動物たち、彼らの死屍累々など、かなりリアルな描写が用意され、実話に忠実であろうという作り手の「本気」に圧倒される。動物園の隠されたスペースを使って、ユダヤ人を匿うこの物語は、彼らが見つかるサスペンスを描くというよりは、匿う側の夫妻のヒューマンドラマが強調され、感情移入しやすい作りだ。
かつて名匠、アンジェイ・ワイダが描いたコルチャック先生(ユダヤ人孤児を助けようとした小児科医)の苦闘も挿入され、第二次大戦中のポーランドの実情が鮮烈に伝わる。戦争の記憶として存在価値の高い一作。このところ、ジェシカ・チャステインの主演作は安定感バツグンでは?
動物を愛する主人公の目に映る世界は常に寒い
映画の原題は"動物園長の妻"。夫と動物園を経営するひとりの女性が、なぜナチスの迫害からユダヤ人たちを逃さなければならないと考えたのか。本作はその動機を、彼女が動物を愛する理由と結びつけて描く。それが結びついた時に、彼女の行動に納得がいく。彼女がユダヤ人たちの救出のために動物園を使ったことが、象徴的な行為にも見えてくる。そして、差別や迫害が現在の問題でもあることが痛感される。
映画はこの女性の視点から描かれ、画面に映し出されるのは、彼女の眼に映るナチス侵攻下のポーランド。そこは自力で生き延びる力の弱い動物たち、幼い子供たち、老人たちで溢れている。空気は常に湿っていて寒い。
危険を冒してでも他人を救う。人間愛の偉大さを語る実話
第二次対戦中のワルシャワで、300人ものユダヤ人をかくまった動物園オーナー夫婦の実話。見ず知らずの人のために、自分たちの身を危険にさらしたこの人たちの話は、断然、語られるべき。 人間たちの愚かな争いが動物たちを残酷な目に遭わせていたことが描かれる映画の始めの部分では、胸が痛くなった。だが、その後は、ありがちで無難な感動物語になってしまうのが、ちょっと残念。今作では、ソフトな話し方をする、動物好きの優しい母/妻を演じてみせるジェシカ・チャステインに、この人は本当に何をやらせてもすごいと、あらためて感心させられた。