IT/イット “それ”が見えたら、終わり。 (2017):映画短評
IT/イット “それ”が見えたら、終わり。 (2017)ライター6人の平均評価: 4
魔物が潜む郷愁の80年代に、闇を克服する瑞々しい思春期ホラー
長大な原作を圧縮する上で、瑞々しい思春期のストーリーに比重を置き、7人の少年少女を描き分け、恐怖描写にのみ照準を絞らなかった。50年代を舞台としたキング原作を80年代にスライドさせた戦略により、確実に客層も拡げている。魔物が棲むノスタルジックな近過去を乗り越える“裏スタンド・バイ・ミー”として見事な完成度。過干渉、DV、性的虐待…ここでの恐怖は大人達や社会の闇がもたらすものであり、克服すべき通過儀礼でもある。文学的なまでの奥行きを生み、観客の数だけペニーワイズはいると感じさせる普遍化も巧い。恐怖×冒険×成長のブレンドによって、全盛期のアンブリンも成し得なかった思春期ホラーの傑作が誕生した。
『ストレンジャー・シングス』のファンにもおススメ
スティーブン・キングの原作およびテレビ版のうち、過去の出来事に当たる少年時代のパートのみで構成された映画版第1弾。ただし、舞台設定は’50年代から’80年代へと変えられている。リアルタイムで原作本に触れた世代のノスタルジーを掻き立てる、という意味において、これはかなり効果的だ。
幼いジョージ―がペニーワイズの犠牲になるオープニングを含め、血みどろ残酷シーンに一切の容赦なし。イジメの描写も結構ハードだ。それでいて、『スタンド・バイ・ミー』的な少年少女の友情と冒険のドラマも瑞々しく甘酸っぱい。この明と暗のコントラストが絶妙に際立つ。『ストレンジャー・シングス』にハマっている向きにもおススメだ。
スリルとリアルに満ちたジュヴナイルの傑作
大人時代と子ども時代のエピソードが分かちがたく絡み合っている原作の、後者のみを抽出。映画化困難と言われた小説をベースにするうえで、これはまさに英断。
ピエロ姿の怪物ペニーワイズが子どもの恐怖心を利用するという設定が活き、肉親の死やイジメ、虐待等に対する少年・少女たちの思いが切実に伝わる。とくに、ヒロインの初潮を象徴した血まみれバスルームの清掃シーンはザ・キュアー「Six Different Ways」の愛らしい響きも手伝い、忘れ難い。
ホラー色よりジュヴナイル性が強く、シリアスな『グーニーズ』といった感じ。ペニーワイズは現代社会の闇の象徴のようでもあり、そういう意味でむしろ怖い。
今回のスパイスは、80`sとR指定
時代設定を『スタンド・バイ・ミー』とカブりがちな原作&90年のTVムービー版の50年代から80年代に変えたのは、今回の勝因のひとつ。ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックやBMXなどの80`sネタのほか、野性爆弾・くっきー演じるピエロの元ネタなペニーワイズの登場も、アルバムからスライドにアップデート。そして、R指定として容赦ない描写の数々。パク・チャヌク組の撮影マン、チョン・ジョンフンによるノスタルジーを誘う映像美も相まって、前作以上のトラウマ・ホラーに仕上がった。映画館の上映作に、あえて『エルム街の悪夢5/ザ・ドリーム・チャイルド』があるのは、監督にとって大きなヒントになったからとみた!
子供たちが抱く恐れは変形して出現する
子供の頃、怖いものは本当に怖かった。本作の子供たちが、そんな子供時代の恐怖心を思い出させる。彼らの恐怖の対象は変形されているが、その恐怖の根源が実は何なのか、観客には分かるように作られている。本作の全米での驚異的ヒットの背景には、都市伝説の殺人ピエロやそのYoutube動画の流行もあるのだろうが、それだけではなく、本作のピエロが、子供が深層心理では怖いと感じているが、世間ではそれが恐怖の対象とされていないために、なかなか怖いとは口に出せないものの象徴だからではないだろうか。夏休みの子供たちの日常を照らす陽光は明るく、彼らが心理の深いところで抱いている恐れの暗さを際立たせる。
怖さたっぷり。子供たちの演技がすごい
基本は、子供にしか見えない恐ろしい“IT/それ”との遭遇の話でありながら、同時に、複数の子供たちの家庭内の状況やいじめ問題、淡い恋など成長物語の要素が織り込まれていく。なので、“それ”は、ずっと出てくるわけではないのだが、実に効果的な出かたをして、たっぷり怖がらせてくれる。そしてそれらの子役が、とにかく上手い。いや、そこは、彼らを選び、演出したムシェッティ監督の力量と言うべきか。これだけのことをひとつの映画に盛りこもうとするとしかたがないのかもしれないものの(しかもこれは2部作の第1部だ)、ホラー以外の部分は、やや表面的に終わった気がしなくもない。