猫が教えてくれたこと (2016)：映画短評

イスタンブールなら「岩合光明の世界ネコ歩き」でも訪問しているし、
猫から人生哲学を学ぶなら名著「大事なことはみーんな猫に教わった」がある。
ネコノミクス爆発中の日本では新鮮さに乏しい。
それでも79 分間、対峙していると考えさせられることが多々あるだろう。
誰かに危害を加えられることなく猫が闊歩している街の豊かさと、それが日本でも可能か？という現実を。
なので欲を言えばもう少し地域猫を世話する仕組みや、
この街ですら失われつつある文化であるという未来の話にもう少し踏み込んでくれたら。
小さく弱き命を社会で守り育んできた歴史と精神。
猫、いや、この街から学ぶべきことはもっとあると思うのだ。

昨年、イスタンブールのカフェ前に近辺で愛されていた野良猫の銅像が設置されたというニュースを耳にしていたけれど、この街全体が実は猫カフェ化（？）していたようだ。街のあちこちで自由気ままに生きる猫と彼らを温かく見守る人々のさまざまな思いをとらえた映像からは、強烈な猫愛が伝わってくる。鷹揚に人間に触らせてくれる野良猫っていいなぁ。日本の都会では毛嫌いされる餌やり人も多数登場し、「動物を愛せない人は人間も愛せない」なんて名言も飛び出す。愛らしい子猫から凶暴なサイコ猫、支配地拡大を狙うケンカ上等猫など個性豊かな猫を追った映像は微笑ましく、見ていて思わず「や〜ん、可愛い」と声が出そうになった。油断禁物だ。

まるで町ごと猫カフェ状態……いや、もっと有機的な秩序が保たれているイスタンブールの風景。あまりに美しくナチュラルな野良猫と人間の共存ぶりに驚いてしまった。「例えば宇宙人と友達になるのと同じような感覚なのかも」とある女性がコメントするように、ちょっとSFっぽく見える。主題的には他者理解、多様なエスニシティ等と繋がるし、人工と自然がWin-Winの関係を築く為のヒントでもあろう。

しかしこの理想的なバランスも再開発の波で失われつつあるという。その問題提起の為にも勝手な擬人化ではなく、猫を猫のまま捉える視座がどれだけ重要なことか。動物映画の感動のクリシェとは一線を画す「猫目線」の撮影も素晴らしい。

　話題の超大作でもないし、DVDになってからで良いかと思っている猫好きの人へ。それは間違い。イスタンブールの野良猫を撮った低予算のドキュメンタリー映画をわざわざお金を払って劇場まで見に来る人たちは、みんな猫が大好き。映画に登場する猫ちゃんたちの行動に「ある、ある」と笑ったり、図太い猫にあっけにとられたり。それを、劇場にいる人たちみんなと一緒に体験できるのが、この映画なのだ。自分がいるところからすごく遠い場所で、全然知らない人たちが猫を気にかけ、心をつなげている様子には、じーんとさせられる。イスタンブールに住む普通の人々の日常が見られるのも素敵。