ブラックパンサー (2018):映画短評
ブラックパンサー (2018)ライター6人の平均評価: 4.5
ヒーロー映画を変える、可能性と誇りに満ちた新世代アフリカ神話
マーケティング至上主義からは生まれなかった、欧米カルチャー追従型ではない画期的なスーパーヒーロー映画だ。主要キャストとスタッフは黒人で占められる。白人からの侵略と収奪に苦悩した歴史を踏まえ、新世代アフリカ系アメリカ人の神話に昇華させた。悪は武力闘争をも辞さない男。自国ファーストで土着文化を守るべきか、世界と交わり貢献していくべきかというせめぎ合いは批評性に富んでいる。プロダクションデザイナーは『ムーンライト』のハンナ・ビークラー。オリジナリティ溢れる色彩、デザイン、そして独自のサウンドが心身を刺激する。民族の可能性と誇りを全開させた本作の成功は、ヒーロー映画のメルクマールになるに違いない。
アマゾン族の王女にも負ける気がしない!
アマゾン族の王女に対し、「MCU」からワカンダの国王が降臨! 脇の女性キャラも魅力的な『ワンダーウーマン』らしさ、王座をめぐるシェイクスピア的展開は『マイティ・ソー』らしさもあるが、とにかく“クリード”ことマイケル・B・ジョーダン演じる宿敵キルモンガーの存在感がハンパない。しかも、前作『クリード チャンプを継ぐ男』同様、偉大な父を持つ“2代目”としての葛藤を描く重厚なストーリーにおいて、前作同様の長回しの格闘シーンは効果的だ。自然な流れで『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』のテロ事件との関係性も描かれる構成や、ブラックスプロイテーション・ムービーとしての面白さもあり、全米での熱狂も頷ける。
太鼓の音が、身体の奥深くにある感覚を刺激する
太鼓が連打されて動悸が速まる。音楽、色彩、デザインが、身体の奥深くにある感覚を刺激してくる。それは、耳から入ってくるもの、目から入ってくるものが、分かりやすくストレートに、古来からのアフリカの太鼓、民族衣装、紋様を踏まえているからだろう。
世界最先端の科学技術国ワカンダを描く映画に、若い黒人クリエイターが集結、やろうと思えば現代的なブラック・カルチャーを全面的に押し出した音と色彩による映像化も可能だ。そこを、あえて伝統的文化に立脚する形で描いたのは、作り手たちがスーパーヒーロー・アメコミが一種の神話であることを熟知しているからだろう。映画の冒頭から、語り継がれる物語として描かれている。
トランプ時代のアメリカにNOを突き付ける傑作
これまでにも世界の今、アメリカの今を、物語に少なからず投影してきたマーベル・ヒーロー映画だが、本作はその真骨頂と言えよう。
スーパーヒーローである以前に国家元首として、自国の利益だけを優先する保守主義を貫くべきか、それとも国境の壁を取り払って自国の富と資源と技術を世界と共有して人類の平和に役立てるのか、その二者択一を迫られるブラックパンサー。そんな彼が封印された過去の歴史から生まれた復讐者と対峙し、分断と対立の危機に直面する。
トランプ時代のアメリカに真正面からNOを突き付け、憎悪ではなく融和、戦いではなく団結こそが人類の未来を切り開くと高らかに謳いあげる野心作。今絶対に見るべき一本だ。
さすが、ライアン・クーグラー!
大型予算をかけたアメコミ映画。だが、全編通してパーソナルな視点と雰囲気があるのは、さすが「フルートベール駅で」のライアン・クーグラーならでは。出だしからして、北カリフォルニア州オークランドの黒人が多く住む住宅街なのである。アメコミの世界にどっぷり入ってからも、富や知識を恵まれない国の人たちとも分かち合うべきかとか、リーダーとは、など、タイムリーな問題に触れられていく。このジャンルで主要キャストのほとんどが黒人というのはもちろん画期的だが、女性陣の暴れっぷりも特筆すべき。それも、セクシー美女が紅一点的に出るのではないのだ。間違いなく、映画史上ずっと語り継がれる作品である。
マーベル他作との関係=しがらみを気にせず、単体で楽しめる
他作品とのリンクも見どころとなるマーベル映画で、これは単独のストーリーとして、妙な寄り道がない作りが爽快。
まず、アフリカの架空の国、ワカンダの土地柄や伝統、ハイテク社会の映像で、未体験ワールドに導かれる快感を提供。ライアン・クーグラー監督は、『クリード チャンプを継ぐ男』でも格闘の見せ方が秀逸だったが、今回もアクション場面を、ひじょうに見やすい構図や編集で作り上げた。
漆黒の闇にしなやかに躍動するブラックパンサーはもちろん、敵のキルモンガーも戦闘のカッコよさで、観る者の本能を刺激する。物語はギリシャ神話のような荘厳さも備え、あらゆる要素が、アクション映画として文句ナシの仕上がり。