ザ・シークレットマン (2017):映画短評
ザ・シークレットマン (2017)ライター3人の平均評価: 3
権力に忖度などしない頑固さが腐敗政治を追い込む
ウォーターゲート事件を題材にした映画といえば『大統領の陰謀』があまりにも有名だが、あちらが真相を追及するジャーナリスト側の視点で描かれていたのに対し、こちらは内部告発者すなわち「ディープ・スロート」本人の視点から、当時のニクソン政権下のFBIで何が起きていたのかを克明に描いていく。
興味深いのは、主人公が決して政治的信条などから内部告発したのではなく、あくまでもFBIという捜査機関の中立性を守ろうとしただけだということ。己の職務にどこまでも忠実で、大統領や政治家に忖度などしない。そんな彼の頑固さが、結果的に腐敗した政治を正すことになったわけだ。どこかの国の官僚にも見習ってほしいところだ。
新鮮な視点、独特の色調が、有名実話を描き直す
ウォーターゲート事件は何度も描かれてきたが、当時FBI副長官だった内部告発者を主人公にしたところが新鮮。この事件の前を描く「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」もそうだが、アメリカ映画は今、権力の腐敗を告発する物語を描こうとしている。
時代背景は70年代だが、画面の色彩は当時の時代性を反映することなく、終始、独特の青灰色がかった冷たい色調。その色が、この物語がある特定の時代だけに属するものではないことを強調する。
昨今は、アクション映画で格闘する父親に扮している感のあるリーアム・ニーソンだが、本作はまったく違う。静かに耐えて屈しない男の佇まいがよく似合っている。
一気に老け込んだリーアムが、主人公にリアリティを与える
ここ数年、『96時間』の無敵オヤジな外見を維持していたリーアム・ニーソンが、今作では頬がげっそりコケた外見で、そこにまず衝撃。しかしやがて、真実を明かせない立場のFBI副長官という役柄に、そのげっそり具合が異様なほどマッチし、秘めた苦悩がじわじわ伝わる仕組みになっている。役作りの成功例だ。
40年以上前にホワイトハウスを揺るがしたこの実話を、現在のトランプ政権と重ねて観てしまうのは必然。スピルバーグの『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』とも物語がリンクするので、合わせての鑑賞を強くオススメする。
スパイスの効果を出すはずの主人公の家族ドラマが、余分に感じられるのが惜しい。