殺さない彼と死なない彼女 (2019):映画短評
殺さない彼と死なない彼女 (2019)ライター2人の平均評価: 5
“泣ける”だけじゃない、観る者を陶酔させる映画的マジック
かなり面倒臭いこじらせも、観ていて恥ずかしくなるほどのキラキラも、まさかのサプライズも、“全部乗せ”でお届けする青春群像劇。淡々とした独特な4コマ漫画をよくぞ、ここまで二時間超えの“映画”に仕上げた脚色の感動もありつつ、キャラクターたちの病み方に当初は入り込めない世代をも巻き込み、まさかの“泣き”へと繋げていく驚異の演出は、おっさんながら乙女心を持つ小林啓一監督の本領発揮! 自然光を使ったこだわりの映像美もさることながら、『ホットギミック』に続き、色気がハンパない間宮祥太朗に、監督の前作『逆光の頃』に比べ、俳優の顔になっている金子大地など、キャスティングも完璧すぎ。
春の土手を包む柔らかな光
恐ろしく丁寧な小林啓一監督。四コマベースの連鎖で「生きる意味」に降りていく破格の原作を再構成し、ワンショット毎にかける集中力で大切に映画へと移し替えた。捨て身や体当たりでしか立ち向かえないノイジーな現実の中で、他者受容と自己肯定のきっかけをようやくつかむ。その瞬間の「生成」が映画の中で確かに起こっている。
そもそも「生きる意味」は小林作品にとっても重要な主題。『ももいろそろを』と『ぼんとリンちゃん』で感受性の強いヒロインと現実の闘いを描き、『逆光の頃』では瑞々しい青春の風景を純化した。今回はその合わせ技。こじらせた自意識や面倒臭い人間の想いをこれだけ爽やかに包み込める監督は他にいないだろう。