スノー・ロワイヤル (2019):映画短評
スノー・ロワイヤル (2019)ライター5人の平均評価: 3
スリリングだが、ユルさにジンワリ味も出る
“怒れる父親リベンジ・アクション”だからL・ニーソンを起用…というのはハリウッド・リメイクらしいわかりやすさだが、味のあるドラマには違いない。
ひと言でいえば、血で血を争うクライム・ストーリー。それでい、シリアスな状況をそれほどシリアスに見せないユーモアが味。待機中に雪遊びをする、ジョニー・トー作品のテイストに似たギャングたちの姿にニヤリ。
マジメな主人公も、ギャングも、その抗争相手のネイティブアメリカンも、警察も、どこか緩んでいるのは舞台が田舎町だから。雪国生まれの筆者としては、キャラクターのゆったりとした思考の流れがリアルに感じられ、『ファーゴ』に似たオフビート風味を堪能した。
数え切れない死体数と意外な凶器。雪山は怖いよ。
『96時間』でL・ニーソンのファンになった人なら満足のアクション。息子を殺害された真面目男の復讐劇に麻薬組織の抗争が絡み、死体がどんどん積み上がる展開にはしかも、タランティーノ風味もある。ギャングが馬鹿げたあだ名で互いを呼び合い、壮絶なはずの銃撃戦に「えっ?」となる瞬間があり、麻薬王が妙にストイック。不要と思えるサブプロットもあるが、H・P・モランド監督が自作をリメイクする上でカットしなかったのだから、このひっかかりこそ本作の妙なのだろう。思い返すと殺人を悔いもしない主人公の人間像やL・ダーン演じる主人公の妻の行動には疑問が残るが、観客をいちいち立ち止まらせない監督の力技がすごい。
実はハリウッドリメイクに向かない映画
「96時間」ふうのリーアム・ニーソンのリベンジ物というよりも、ドラッグビジネスの裏側を描くのが今作。そういう設定は、一見、ノルウェーからアメリカにすんなりと持っていけそうに思うが、その分野は最近だけでも「ボーダーライン」から「オザークへようこそ」、イーストウッドの「運び屋」まで、興味深い視点から語る秀作の数々で混み合っている。そんな中において、今作は何も新しいものを提供しない。独特のスタイリッシュさも、個性として光るというより、作り物っぽさを強調することになっている。妻役に、せっかく才能豊かなローラ・ダーンを使っているのにあっというまに消えてしまうし、エミー・ロッサムは完全なミスキャストだ。
オリジナルに忠実すぎるリメイク
オリジナル『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』のいちばんの魅力は、アクションのイメージがないステラン・スカルスガルドがオフビートな笑いを交えながら、殺しまくる不気味さだった。その監督が起用された本作では、舞台など若干の変更はあれど、セリフやアングルはまんま。独特なリズムで、尺もほぼ変わらず。かなり異色のハリウッド・リメイクとなったが、名誉市民の主人公を“怒れる親父キャラ”が定着してるリーアム・ニーソンが演じることで、先の不気味さは減少。そのぶん、笑いの要素が増した感があるが、それだけに同じテイストのノルウェー映画『ヘッドハンター』のリメイクの行方が気になるところ。
いつものニーソンの暴走お父さん映画とは別のユニークな味
いつものリーアム・ニーソンの暴走お父さん映画かと思うと、まったく違う。景色は雪深い静かな町、ニーソン演じる除雪車操縦者は真面目で寡黙、復讐劇ではあるのだが、オフビートなギャグが満載。ちょっと変わった人たちが続々で、健康志向でキレやすい麻薬王、その息子の冷静沈着な小学生、賢者だが復讐に目が眩む先住民麻薬組織のボス、事件に興奮する女性警官らが右往左往。奇妙な間もあり、爆笑というのとは違うクセのある笑い。ノルウェー監督ハンス・ペテル・モランドによる自作のハリウッド版セルフリメイクだが、なるほど、このギャグの妙な味は他の監督には出しにくいかも。