ドクター・スリープ (2019):映画短評
ドクター・スリープ (2019)ライター8人の平均評価: 3.3
キングの大嫌いな『シャイニング』におんぶにだっこ。
最初に告白しておくと、『シャイニング』の原作は読んでいてキューブリックの映画とまるで違うのは判ってるし、今回の原作は未読である。原作者キングがキューブリックの作を毛嫌いしてるのは百も承知の上で本作を観るとなんとも微妙な心地にさせてくれるのだな。冒頭からこの監督は何から何まで、肝心な箇所はすべてキューブリック版『シャイニング』をトレースする形で作っている。しかし物語はベタなホラー設定からどうにも逃れ得ないもので(文字で読めばそのあたり、キングの筆力によって特別に感じられるのだろうが)、とりわけ謎のシャイニング吸精集団のひ弱さったら「長生きするしか能がないのか!」とツッコミたくなる始末。
いろんな意味で、『シャイニング』解答編
まさにファン待望だが、思い切った企画でもある。ダニー少年の面影を感じさせないユアン・マクレガーは健闘しているうえ、再現度の高いカット&装飾で彩られたオーバールック・ホテルでのクライマックスは、かなり高まる。とはいえ、体感的にはかなり冗長で、軸となるレベッカ・ファーガソン演じる帽子美女率いるマンソン・ファミリー風一味とのサイキック・バトルは、ミニマムな『X-MEN』にも見えてしまう不思議さ。要はスティーブン・キングの原作を忠実に映画化したとはいえ、それが映画的に傑作となるのか? つまり、いろんな意味でキューブリックの『シャイニング』に対する解答になったといえる。
「シャイニング」ミーツ「X-MEN」!?
40年後の運命として納得のいく展開だし、いろいろ不可解だった部分が整理されていたりする。そして『シャイニング』の再現部分は、スピルバーグの『レディ・プレイヤー1』には及ばないものの、映像のテイスト、カメラの動きなど健闘賞。ちょっと現代の映画っぽくない謎ムードで『シャイニング』を踏襲しつつ、超人パワーの部分は苦悩&アクションともに「X-MEN」「ファンタスティック・フォー」のノリで、2種類の映画が同居したような感覚もある(それはそれで楽しい)。つまり続編として期待する上の世代と、近年のアメコミ映画に慣れた若い世代、両方にアピールしたような…。トラウマを抱えて大人になった役はユアンの独壇場である。
「シャイニング」の続きでありながらかなりテイストが違う
キューブリックの「シャイニング」でも、少年ダニーの特殊な能力“シャイニング”については語られたが、基本的にあの映画は無残な形で死んだ人たちが出てくるという映画で、シンプルだった。だが、今作は、ちゃんとその続きでありつつ、話の中心が“シャイニング”そのものについてなので、ホラーというよりスーパーパワー映画になっている。そのため途中まで1作目のファンはかなり肩透かしを食らうかもしれないが、クライマックスにちゃんと興奮が用意されているので、そこまで我慢を。また、この映画の作り手は1作目を見ていなくても大丈夫とは言っているものの、見ていないとピンとこない部分があるだろうことはたしか。
恐怖は薄いが、確かにキング印
S・キングが自身の原作である映画『シャイニング』を気に入っていないのは有名な話だが、映画版と小説版の両方の続編として製作された本作を見ると、その理由もわかる気がする。
大人になった少年ダニーと他者とのつながりがドラマを動かし、一方で彼が持つ能力=シャイニングを求めた悪党が暗躍。この悪党に前作のジャックのような人間臭い狂気はない。むしろ純度の高い悪。ダニーを善とするならば対立構造が成立している。
『IT/イット~』もそうだがキング原作の映画の多くは立ち向かうべき悪があり、それにより主人公の成長が促される。本作には『シャイニング』のような恐怖は薄いが、欠落していたそれを見ることができる。
ホラー要素のある人間ドラマでした
S・キングが嫌悪した『シャイニング』続編にGOサインを出すとは思わなかったが、キューブリック版に敬意を払いつつ、原作をリスペクトした作品となっている。主人公ダニーは事件のトラウマを抱え、父親と同じアルコール依存症に苦しむ設定で、哀れそのもの。特殊能力などやはり、呪いでしかないの?と思ってしまうが、ダニーと彼と絆を結ぶアブラが能力と折り合いをつけるまでが物語のメインと言える。ホラー要素のある人間ドラマというテイストで、とても見やすい(ただ長すぎる)。特殊能力を糧とする謎の集団を率いるR・ファーガソンが魅惑的だが、新星カイリー・カランの輝きはベテラン陣を超えた。
「シャイニング」をもう一度見ておくともっと楽しめる
もう一度、映画「シャイニング」を見直しておくと面白さが倍増する。本作の主人公が「シャイニング」ではまだ幼かったダニー少年の成長後なので、ストーリーもあの映画の続きだし、主人公が当時を回想する場面もあり、あの映画と同じ場所や同じ人物が続々登場するのは当然として、それだけでなく、映像面にも映画音楽面にも、あの映画へのオマージュがぎっしり詰まっているのだ。
そして「シャイニング」とそっくりなはずの光景が次から次へと出てくるのに、それが「シャイニング」とはまったく違うという奇妙な現象が起きる。それを味わうのが、この映画の醍醐味かもしれない。
傑作ホラーの傑作続編、映像化ラッシュの大本命
予想以上にストレートな『シャイニング』の続編で驚かされました。ただ、続編的な部分で勝負をするのではなく『ドクター・スリープ』としての新たな物語の部分でちゃんと勝負をしている作品です。
2時間半を超える長尺ですが、スティーブン・キング原作映画の中で最上位の作品と言っていいでしょう。何度目かの映像化ラッシュが起きてますが、文句なしに大本命の映画と言えるでしょう。ユアン・マクレンガーのダニーもよかったですが、レベッカ・ファーガソンの邪悪さがとても魅力的です。『ジェラルドのゲーム』に続いてキングの世界と抜群の相性を見せてマイク・フラナガン監督の名前を覚えておきましょう。