真実 (2019):映画短評
真実 (2019)ライター5人の平均評価: 3.6
異国でも手堅く作り上げた家族ドラマ
『空気人形』のペ・ドゥナに続く、是枝監督からのカトリーヌ・ドヌーヴへのラブレターといえるだろう。若手新進女優への嫉妬心など、セルフパロディともいえる“大女優あるある”を爆発させながら、『歩いても歩いても』『海よりもまだ深く』での樹木希林を思い起こさせる娘との会話や、やけに豹柄が似合う大阪のおばちゃん的存在感で笑いを誘うドヌーヴ。とはいえ、タイトルでもある“自伝本”の内容が終始、物語を引っ張るわけでも、ハネケの『ハッピーエンド』のようにサスペンス色が強くなるわけでもないため、どこかモノ足りなさを感じるのも事実。子役の使い方も相変わらず巧く、異国でも手堅い家族ドラマを作り上げた感強し。
大物フランス女優競演でも日本映画のテイスト!
カトリーヌ・ドヌーブがいわゆる大女優を演じる母娘ドラマだが、毒舌で自分勝手なヒロインや彼女に複雑な思いを抱く娘、女優に忠実なエージェントといったキャラ設定が非常にわかりやすい。ちょっと少女漫画風。母娘が愛した女優(故人)をめぐる思い出の相違や、故人の再来とされる新進女優と大女優が腹を割って話す下りなど挟まれる逸話も日本人の心にグッとくる。真実は一つじゃないという『羅生門』的な感覚だ。しかも子役以外の登場人物はみな思っていることを心に秘め、言外の意味を読み取らせようとする。大物フランス女優競演でも日本映画のテイストを維持するとは、さすがは是枝監督! 山田五十鈴と嵯峨三智子で作ってほしかった。
監督が誰かも忘れ、軽やかで切ない大人の物語に身を任せたい
無理な話だが、監督の名を知らずに観て、後から誰が撮ったかを知ったら、どんなに幸福な気分になれただろう。期待される「パターン」に陥らず、「フランス映画」も軽やかに撮る監督の柔軟性に感動せずにはいられない。もともとセリフを紡(つむ)ぎ合うことで熟成される是枝作品が、フランス映画のムードにぴたりとハマることが、図らずも証明された。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のような劇中劇で永遠の少女と化すカトリーヌ・ドヌーヴの「余裕」に圧倒されつつ、重要な表情をあえて見せず、観客の想像力にゆだねるなど、過去の是枝作品の延長的な演出が、大女優のめざす方向と一致する瞬間を何度も確認。ラストも、とにかく粋!
真実が常にひとつとは限らない
いやはや、明らかに見た目はフランス映画のルックなのに、しかしトータルではきっちり是枝作品として仕上がっているのは凄い。演じるカトリーヌ・ドヌーヴ自身を彷彿とさせるフランスの国民的大女優と、そんな母親の存在を重荷に感じてかニューヨークで脚本家をしている娘の、複雑にもつれ合う母娘の愛憎を軸にした家族の物語だ。母親が自伝に書かなかった「真実」を巡って露呈する家族間のわだかまり。その揺れ動きを洒脱なユーモアを交えつつ軽やかに描く。人間の記憶が必ずしも正確ではないように、「真実」も常にひとつとは限らないし、時として優しい嘘が救いになることもあるのだ。ドヌーヴの女王様っぷりも痛快!
ドヌーヴ!ドヌーヴ!ドヌーヴ!
『万引き家族』の印象もまだ強い中での是枝監督最新作。是枝作品イコール重厚な社会派ドラマという勝手な思い込みを軽やかに裏切ってくれ、『花よりもなほ』のタッチを思い出させてくれます。
カトリーヌ・ドウーヴ、ジュリエット・ビノッシュ、イーサン・ホークとトップスターの名前が並びますが、やはり、フランス映画界の大物女優というほとんどそのままの役を演じたドヌーヴの圧倒的な存在感。エンドロールまで圧倒的かつ軽やかに映画を支配しつけてくれます。