グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~ (2019):映画短評
グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~ (2019)ライター4人の平均評価: 3.3
小池栄子の見事なコメディエンヌぶりに脱帽!
戦後間もない頃の日本。その優柔不断さゆえ幾人もの愛人を囲った既婚男・周二が、銭ゲバの担ぎ屋女・キヌ子を雇って自分の女房を演じさせ、体よく愛人たちとグッドバイしようとするものの、次々ととんだ災難に見舞われていく…という因果応報な人情喜劇。女性に依存せねば生きていけぬダメ男の滑稽さを笑い飛ばしつつ、男社会で女性が自立して生活することの過酷さもちゃんと描いているところがミソだ。また、邦画では往々にして軽んじられがちな、登場人物のセリフ回しや立ち振る舞いにも時代考証が行き届いているのは立派。なにより、キヌ子を演じる小池栄子の見事なコメディエンヌぶりときたら!さながら和製ルシル・ボールの如しである。
大泉洋は愛すべきダメ男役が本当に似合う!
太宰治をモチーフにした“女にだらしない男”の心中話と思いきや、意外にもコメディ方面に舵を切る。すぐに女に手を出す主人公は、女性視点からはNGなのだが、大泉洋が軽妙に演じたせいで愛すべきダメ男となっている。そしてそんな大泉を翻弄する女優陣がまた開き直った演技を披露し、男女の妙味が伝わってくる。ケラさんの脚本力もあるが、演者はみなキャラにハマっている。たくましくも美しいヒロインを演じた小池栄子は声のトーンや話し方をしっかり作りこみ、戦後のどさくさを独力で生き延びる女性を怪演する。彼女と大泉の相性のよさも本作の魅力のひとつ。この二人でダメ文豪シリーズを作ってほしい。
大泉洋をも食う小池栄子のコメディエンヌっぷり
“小池栄子主演映画”として、成島出監督が惚れ込んで選んだ戯曲。それだけに、ヒロイン・キヌ子の過去を描いている冒頭から独壇場。その後も、コメディとして観ると、どこかモノ足りなさもある大泉洋を完全に喰っており、女優として覚醒を遂げた『接吻』に次ぐ代表作といえるかもしれない。その『接吻』でも相手役だった仲村トオルが主人公を演じた舞台版に比べると、スマートでポップだったケラ・テイストは影を潜め、そのぶん、ベタな笑いと妙な色気が増すあたりが成島監督テイストというべきか。災難続きの後半の展開も、どこか泥臭く、副題通り、懐かしさも感じる日本喜劇に仕上がっている。
太宰治はこういう話が書きたかったのかも
太宰治が冒頭だけ書いた未完小説「グッドバイ」の続きを、ナイロン100%のケラリーノ・サンドロヴィッチが舞台として完成させて、それを『ちょっと今から仕事やめてくる』の成島出監督が映画化。映画を見たら軽快なテンポの楽しいストーリーで、太宰がどこまで書いたのか小説を読んでみたら、映画の冒頭は丸ごと小説のままで、実際に太宰はこの映画のような話を書きたかったんじゃないかと思えてきた。主人公の、女性が大好きで女性たちに振り回されてしまうところも太宰っぽいし。愛人たちはみな、人気女優が演じてそれぞれ魅力的だが、舞台版と同じ小池栄子が演じる鴉声のヒロインが、たくましくて可愛げがあって最強。