劇場 (2020):映画短評
劇場 (2020)ライター3人の平均評価: 4
痛みと哀しみにフォーカスして描かれる普遍的なラブストーリー
夢を追い求めるあまり現実をおろそかにしてしまうダメ男の演劇青年と、そんな彼を支えるために自分の夢を諦めて献身的に尽くす元女優志望の女性が、お互いを愛し同じ屋根の下で暮らすことになるものの、度重なる心のすれ違いが少しずつ2人の間に深い溝を生んでしまう。芸術系大学出身の身としては、彼らと似たようなカップルを何度見てきたことか。そうでなくとも、主人公2人の関係性に既視感がある、身に覚えがあるという人は少なくないはず。そんな普遍性のあるラブストーリーを、「痛み」や「哀しみ」にフォーカスしながら丹念に描くことで、絵空事ではない説得力が生まれている。最後に用意された仕掛けも映画的かつ演劇的で効果あり。
松岡茉優の沙希ちゃん、ほぼ菩薩説。
出会いはほとんど変質者で、同棲したらガチでクズ男。そんなイタいのに、自身と重なる男も多い主人公・永田を、山崎賢人が演じる面白さ。まるで『アイデン&ティティ』のミュージシャンと彼女の関係性だが、当時の麻生久美子が女神と呼ばれたように、原作の沙希ちゃんそのものな松岡茉優は“菩薩”であり、あまりに切なすぎる。ラブシーンが一切なく、物語がお互いの感情の機微だけで展開することや、原作の難解さを巧くまとめている感は賛否ありそうだが、主演2人としっかりオトナの女性を演じる伊藤沙莉ら、豪華助演陣による「映画版」としては文句なし。『街の上で』同様、下北映画としても見応えアリ!
松岡茉優の危うさ
松岡茉優が登場したところからずっと目が離せなくなります。徐々に壊れていくヒロインですが、最初のシーンから危うさ、不安定さを漂わせ、時に痛々しすら感じさせ、こちらも心もとなくなります。
山﨑賢人を筆頭に他が受けの演技に回っていることもありますが、松岡茉優の演技の強弱がよりストレートに伝わってきます。
映像ならではのアレンジが加わったエンディングもまさに『劇場』というタイトルの映画にピタッとはまってハッとさせられます。
敢えて、エロスを引っ込めた行定演出が、そうすることでかえって生々しくなるところもあるというのは嬉しい発見でした。