マザーレス・ブルックリン (2019):映画短評
マザーレス・ブルックリン (2019)ライター4人の平均評価: 3
現代アメリカの政治情勢を彷彿させるNYの深い闇!
イカしたジャズをBGMに腐敗した政治や人種問題、兄弟の確執がからむ複雑な物語が展開し、ノワール感満載だ。父親代りのボスの無念を晴らす私立探偵ライオネルがニューヨークの巨悪と対峙する展開に現代アメリカの政治情勢が重なって見えた。巨悪を演じるA・ボールドウィンはトランプ大統領のモノマネでも人気なので、キャラクターにトランプ要素が入ったのも仕方なしだろう。残酷でレイシスト的なセリフにゾッとした。監督・脚色・主演の三役を果たしたE・ノートンは、ライオネルを変人ではなく、人間味のある男として描いている。彼のトゥレット症候群による発言がちょっとしたユーモアになっていて、観客の共感度を高める熱演だ。
1950年代ハードボイルドの世界に酔う
1950年代のブルックリン、古い建築物の並ぶ街、暗い街灯に照らし出される夜の舗道を、長いコートの私立探偵が走る。流れる音楽は、ジャズ。男が追うのは、ある種の宿命の女。本作で2度目の監督業に挑んだエドワード・ノートンが描こうとする世界観は明確で、それを視覚化することに成功している。ノートン自身がファンなのだろう、トム・ヨークが歌うオリジナル曲が2度も流れ、それもこの映画の世界に似合っている。
場面によっては人物の台詞がとても多く、似たような発言の重複を感じてしまう部分もあるが、それはノートン自身が俳優でもあり、俳優たちの演技を見せたくなってしまうからなのかもしれない。
自作自演、ジャズ・フォーメーション、都市論ノワール
いかにも俳優が監督した映画と思わせる「強い芝居」のアンサンブル。ノートン扮する私立探偵(役名はライオネル・ホワイトを連想)はトゥレット症候群&記憶力の天才という逸脱的キャラクターで、世界の歪みを過敏に探知するレーダーにも見える。舞台は57年NY。急激な再開発に軋みを立てる都市そのもののように、表層を一枚剥いだら別の模様が見えるような物語構造で飽きさせない。
古典的なフィルムノワールの型に、ワイズマン『ニューヨーク、ジャクソン・ハイツへようこそ』等に通じる主題を流し込んだ設計が面白く、ダニエル・ペンバートンのジャズスコアも「時代と現代」を繋ぐ趣き。その延長でトム・ヨークの主題歌も美しく響く。
情熱の一作だが空振りしてしまった
演技派と認められながら、近年は良い役に恵まれてきていないノートンの気合いとエゴが終始見え見え。彼が演じる主人公がトゥレット障害をもつという設定だけでも 美味しさたっぷりだが、キャラクターの奥行きのなさと、何よりも映画全体の力のなさのせいで、漫画っぽく見え、ある時点からはしつこくなる。それは“俳優”ノートンのせいでなく、皮肉にも“監督”ノートンのせい。50年代を再現したセットや音楽も、ハードボイルドなフィルムノワールのムードを高めるというより、なんちゃって映画にしている。彼が20年間も実現を願ってきた作品だそうだが、情熱の量と作品の質は比例しないという新たな例。