ムルゲ 王朝の怪物 (2018):映画短評
ムルゲ 王朝の怪物 (2018)ライター5人の平均評価: 3.4
気軽に楽しめる宮廷サスペンス×ホラー・ファンタジー
朝鮮王朝時代を舞台に、民衆を恐怖に陥れる謎の怪物ムルゲを巡り、騒動に便乗して国王・中宗の失脚を狙う宰相一味の陰謀と、国家の危機を救うため戦う武人たちの活躍を描く。近頃流行りの宮廷サスペンス×ホラー・ファンタジー。ストーリーの基本的な流れはNetflixドラマ『キングダム』やチャン・ドンゴン出演『王宮の夜鬼』とあまり変わらず、簡単に先が読めてしまうことは否めないものの、ド派手な剣劇アクションにモンスター・パニック、豪華絢爛な美術セットに宮廷衣装など見どころ満載で全く退屈しない。怪物騒動の背景に悪名高き暴君・燕山君の影がちらつく辺りも歴史好きならニヤリ。ピュアな若者役のチェ・ウシクも好演だ。
気が付けばジェットコースター! モンスター映画の快作
“ムルゲ(物怪…モンスターのこと)は人間の中にいる”というテーマを早々にセリフにしたと思ったら、その後怒涛の急展開。俄然目が離せなくなる。
疫病感染の法則にツッコミどころはあるものの、チャンバラやアクロバット、爆破などのアクションとスペクタクルのつるべ打ちに吸い寄せられ、アッと言う間の105分。主演のキム・ミョンミンのヒロイックな熱演はもちろん『パラサイト/半地下の家族』の注目株チュ・ウシクの頑張りも光る。
監督は歴史書をベースにして空白をイマジネーションで埋めていったというが、その想像力やアイデアは注目に値する。個人的には“無能な為政者こそムルゲである”というテーマが引っかかった。
出し惜しみしないサービス精神
権力争いとモンスターとの関係性もあり、“韓国版『ジェヴォーダンの獣』”的な雰囲気も漂わせるが、同じ朝鮮王朝を舞台に疫病の恐怖を描いた“『王宮の夜鬼』怪物ヴァージョン”という方が正しいだろう。そんな怪物との戦いに、かつての武術の達人とその娘らが挑むというストーリー的にはかなり凡庸であり、お約束なユルいギャグも炸裂。そんななか期待してしまう怪物の造形は、筋肉質の獅子のようであり、かなりスピーディな動き。サイズ的にも『人喰猪、公民館襲撃す!』のイノシシにも近い。中盤戦から、出し惜しみしないサービス精神も満載で、それによって積まれていく死体の山は圧巻だけに、★おまけ。
陰謀とか裏切りのメタファーと思ったら、さにあらず
韓国の王朝ものとなると、宮廷内の党争、うごめく陰謀と裏切りを徳のある御仁が正すというのがお約束。中宗時代の実話が元となっているので、怪物はメタファーと思いきや、意外な展開。そのヒネリも「朝鮮王朝実録」からの発想というから、ホ・ジョンホ監督の「行間を読む力」が生きた。随所にユーモアを忍ばせつつ、庶民の目線で事件を追うので、物語に引き込まれる。唐絵に描かれた狛犬のような造形の怪物を巨悪にはしない、ゴジラ的発想もいい。切ない出自まで描写されるので、後半は暴れっぷりが痛快に思えるほどだ。眉目秀麗な宮廷武官を演じるチェ・ウシクが『パラサイト』とは一味違う、男らしさを披露。
"怪物"の由来を反映した造形に魅せられる
かつて権力者が大量虐殺をした村の近くで怪物出現の噂が浮上。それはある意図のもとに流された噂なのか、それとも怪物は実在するのか。一方で、その噂を悪用しようとする者が動き出す。民衆の怨念が怪物となるという古典的モチーフに、謎解きと謀略のドラマを絡ませたストーリーが秀逸。途中で、"ああ、ここで怪物が大暴れしてくれたら"と願ってしまう場面が何度かあり、そのたびに怪物が大暴れしてくれる。それも快感。
その"怪物"の造形が、この物語と伝説的存在の両方を反映しているのがいい。古代中国の獅子の彫像や、日本の狛犬、16世紀の博物画に描かれた見知らぬ生物を想起させる姿をしており、表皮の表現にも意味がある。