CURED キュアード (2017):映画短評
CURED キュアード (2017)ライター4人の平均評価: 3.5
完治するくらいなら死んだ方がマシ、、、な世界!?
ゾンビ映画はそもそも終末的なものだが、終末を逃れても新たな終末の可能性が待っている。そんな絶望的世界を現実と地続きで描いて見せたユニークな映画。
ゾンビウィルスを治療可能な病気に設定し、”回復者”が置かれる差別を見つめる。彼らはゾンビ時代の記憶が残っている生者で、”生ける屍=ゾンビ”の公式は成り立たない。これとは別にゾンビに殺された“本当の死者”もいて、それが話を面白くする。
パンデミックの今となっては回復者差別や感染テロなどの描写が重くも感じるが、それだけ見応えはある。『28日後…』の主人公にも似た、S・キーリーふんする回復者の心のさまよいにもドラマが宿って◎。
奇しくもタイムリーな要素をはらむパンデミック映画
ゾンビ感染の治療薬が開発され、完治した人々の社会復帰が始まった世界。しかし、彼ら元感染者を待ち受けていたのは、非感染者たちによる壮絶な差別と迫害だった…。ゾンビ・パンデミック物の変化球的な作品。本来憎むべき相手はウィルスであるはずなのに、政府とメディアは己の利益のため大衆の恐怖心を煽り、不安に駆られた人々が感情に任せて理不尽な差別を行い、迫害された者たちは怒りと憎しみを募らせ過激な復讐へと走る。近年の欧州におけるイスラム系移民の排斥問題が物語のヒントとなっているが、奇しくもコロナウィルスのパニックが世界中で広がる現在、それとは違う意味で警鐘を鳴らす作品となっているのが興味深い。
アイルランド産、寒い国のゾンビ映画
かなり変種のゾンビ映画。ゾンビ化はウィルスによる疾病で、75%の患者は治癒するが、治癒者が社会復帰しようとすると人々の差別意識がそれを妨げる。一方、治癒者にはゾンビ化していた時期の記憶があり、その記憶が彼らを苦しめていく。差別と権力とメディアによる意識操作をめぐる社会的ドラマと、罪悪感と贖罪についての個人的ドラマ、その双方が絡み合って展開していく。
もうひとつユニークなのは、アイルランド=仏合作映画で、ロケ地はアイルランド、出演者もエレン・ペイジ以外はアイルランド俳優なこと。世界は常に寒く、空は曇り、大気は湿気を含んで青緑色を帯びる。北方の曇り空の下をゾンビたちがさまよう光景が新鮮。
“元ゾンビ”に未来はあるのか?
まるで服役後の犯罪者やベトナム帰還兵のように、治療法により回復した“元ゾンビのその後”を描いた異色ホラー。主人公はPTSDに苛まれながら、最低賃金の仕事にしか就けず、政府への復讐を企てる回復者同盟に参加。博士とゾンビとの『死霊のえじき』的エピソードも用意されているが、やはり貧困・人種・宗教など、現代の社会問題とリンクする部分が多く、舞台がアイルランドだけに、さらなる悲劇を起こしていく組織の行動も、まるでIRAのよう。冒頭から包み込むヘヴィな世界観は悪くないが、主人公がエレン・ペイジ演じる義姉に隠していた真実など、いかんせんストーリーに捻りがないのは悔やまれる。