リアム・ギャラガー：アズ・イット・ワズ (2019)：映画短評

　元オアシスのフロントマンにしてビッグマウスの持ち主リアム・ギャラガーの実像に迫るドキュメント。

　兄ノエルとの確執によるオアシス解散からソロ活動の成功までを追跡。兄の不在がいかに大きいかを伝えつつ、同時に自分の足で立とうとするリアムの決意を浮き彫りに。オアシスの楽曲が流れないのは残念だが、解散以後の曲のみで固めているのは、本作のテーマにはふさわしい。

　子煩悩ぶりや早朝ジョギングなどのプライベート映像からは意外に(？)しっかり者であることがうかがえる。メディアは彼に野放図な問題児のレッテルを貼り続けてきたが、そんなイメージから外れた部分が見えるのもいい。相変わらず四文字言葉発言は多いが。

兄弟喧嘩で＜オアシス＞から脱退したリアム・ギャラガーが再起するまでの紆余曲折を叙情的に再構成している。メディアが作り上げてきたリアム像と母親や兄、彼の子供たちが語るリアムの実態がかけ離れていて、虚構と真実の間で彼自身も迷子になっていたのではと思わせる。そんな彼が人生をリセットできたのも家族（兄ノエルを除く）のサポートが大きかったという展開は、リアムの家族観を反映しているのだろう。『ロッキー』的な一種のサクセス・ストーリーであり、＜オアシス＞を知らない若い世代でも興味深いと感じるはず。次はノエルが本音を語るドキュメンタリー映画を見てみたくなった。

　ミュージシャンのドキュメンタリーの大多数は、もっとも盛り上がるシーンを、その人物が音楽を出現させるところに持って来るのだが、この映画は違う。むしろ、ステージではない場所、スタジオではない場所で、この人物がどのような表情を見せるのか、それを捉えようとする。あるミュージシャンを描くのではなく、ひとりの人間を描き出そうとするのだ。それは、この映画の監督コンビの一人が音楽ビデオの監督で、被写体であるリアム・ギャラガーを公私に渡って10年前から知っていた人物だということも関係しているだろう。栄光と挫折を経験した人間が、試行錯誤を経て、穏やかに立っていられる場所を見つける。そんな物語にも見えてくる。

さすがは、現代を代表するロックンロール・スター。とにかく口が悪い！　“oasisのリアム”としての栄光からか、ぶっちゃけ、そこまで泥水をすすったわけではないが、失敗に終わる新バンド「ビーディー・アイ」や離婚訴訟問題から、SNS相手にやけっぱちになったところで、救世主といえる女性と出会い、「冷静にノエル兄貴を語れるぐらい、オレもすっかりオトナになりましたよ」な89分。あえてoasis時代の楽曲を流さないところに、“ソロアーティストのリアム”としてのこだわりも感じるが、世界中にoasis世代じゃない新たなファンを獲得していることに驚き。ノエル抜きの“家族映画”であることの違和感も興味深い

親子二世代のファンを有する新たな黄金時代を迎えたリアム・ギャラガー。これは自身いわく「どん底」から「セカンドチャンス」をモノにしていく過程を追った一本。2016年の『オアシス：スーパーソニック』はまだ「神話」を強化する作りだったが、こちらは「ただの男」としてのリアムを映し出す。それでもなお放つ唯一無二の輝き。

天下の悪童が不良親父としてまろやかに円熟していく姿。筆者が率直に近いと思ったのは矢沢永吉の『成りあがり』から『アー・ユー・ハッピー？』への転換だ。「ただロックンロールを歌いたい。俺の居場所はやっぱりマイクスタンドの前だ」。この発言が25年前の『ロックンロール・スター』と二重写しになる。