いのちの停車場 (2021):映画短評
いのちの停車場 (2021)ライター4人の平均評価: 3
”感動”で終わらせてはいけないテーマだが……
吉永小百合の存在が大き過ぎて、幻想を抱いた役になりがちだが今回は比較的等身大。しかも現役医師の原作で、脚本は山田洋次監督作を手がけている平松恵美子だ。自ずと娯楽の表層をまとったピリリとした社会派ドラマを期待していたが、先に同じ在宅医を主人公にした『痛くない死に方』と同作の医療監修を務めた長尾和宏先生のドキュメンタリー『けったいな町医者』が公開され、在宅医療に頼らざるを得ない患者の事情も死の現実もとくと描いていただけに、それと比較すると物足りなさが残る。ラストが非常に重いテーマを投げかけているだけに、豪華キャスト映画の弊害か、そこに至るまでのエピソードの盛り込み過ぎとテーマの散漫さが悔やまれる。
いずれ訪れる我が身の最期を考えさせられる
現場を知らぬ経営陣と衝突して東京の大病院を辞めたベテラン女性医師が、舞い戻った生まれ故郷の小さな診療所で在宅医として働くこととなり、患者ひとりひとりの意思や希望を尊重した柔軟な医療サービスのあり方を模索していくこととなる。病気を治して命を救うだけが医療ではない、患者が満足する人生の終わり方をサポートすることもまた医療の役目なのではないかというわけだ。全体的に古めかしい感動ドラマが鼻につくことは否めないが、しかし尊厳死の問題まで臆せず斬り込んでいくところは興味深く、遅かれ早かれ訪れる我が身の最期を考えさせられる。
金沢の風景と、桃李&すずが癒しとなる
現代の日本社会が抱えている老々介護や命の尊厳といった諸問題に、吉永小百合が鋭く切り込む。田中泯演じるヒロインの父親が登場すると、一気に空気が重くなり、ラストでは観客に問題提起するなど、かなり骨太な一作といえるだろう。というと、どこか構えがちだが、金沢の四季折々の風景とともに、微笑ましい松坂桃李と広瀬すずの存在がかなり重要。みなみらんぼう店主のバーでのムチャぶりモノマネ大会など、謎の演出もありながら、ひとときの癒しとなるのである。オムニバス風展開で、登場しては退場していく豪華キャストなど、観ていて飽きることはないが、NHKのドラマシリーズを観ているような錯覚に陥る。
ハブとしての吉永小百合
流石に、年相応の役柄を演じさせて欲しいなぁと思いつつ、相変わらずの吉永小百合の若々しさ。
田中泯とは父娘に見えるし、西田敏行の方が年上にちゃんと見えちゃうから不思議です。
構造としては在宅医療の診療所をハブにしたオムニバス的な作りの映画でした。
松坂桃李と広瀬すずの若手組も好演も光りました。
彼らが想像以上にフットワークが軽く様々な顔を見せてくるので話に幅が拡がります。
それを吉永小百合という揺るがないハブが軸になっています。