どん底作家の人生に幸あれ! (2019):映画短評
どん底作家の人生に幸あれ! (2019)ライター5人の平均評価: 3.6
ディケンズの古典に21世紀の今を投影した野心的な風刺コメディ
これまで幾度となく映画化されてきたチャールズ・ディケンズの代表作「デイヴィッド・コパフィールド」を、極めて現代的な視点から再構築した風刺コメディだ。19世紀ヴィクトリア朝時代の英国を舞台に、幼い頃から世の辛酸をなめ尽くした若者デイヴィッドが、それでもなお野心と希望を捨てず、愛すべき“変人”たちに支えられて人生を切り拓いていく。原作は170年以上も前に書かれた物語だが、しかしその背景にある格差や貧困、差別などの理不尽な社会システムは現代にも脈々と受け継がれている。はじめは少なからず違和感を覚えるであろう多人種キャストも、古典の持つ普遍性を「21世紀の我々の物語」として描くための仕掛けなのだ。
メロドラマな古典が笑える感動作として蘇る
ディケンズの自伝的作品がモンティ・パイソン風なコメディに! 主人公デイヴィッドを取り巻くのは、エキセントリックな叔母や借金漬けだが楽天家の里親、野心家の事務員など風変わりな人物ばかり。次に何が起こるの?とワクワクさせる。ドタバタ喜劇的な要素を巧みに繋ぎながらも原作を損ねていないあたりが、コメディの鬼才A・イヌアッチ監督のセンスだろう。児童搾取や階級差が生む弊害といった暗い部分にも洒落が随所に忍ばせられていて、ユーモラスだ。また数奇な運命を経て作家になる青年役をD・パテルが演じていて、人種にこだわらずにキャラクターに最適な役者を当てる演劇的なキャスティングも非常に興味深い。
変人たちとの運命を受け止め、幼い自分へ語るセリフにグッとくる
変人たちに囲まれた人生をたどり、彼らにまっすぐ向き合うことで作家の糧になる。そんな主人公の半生は、原作が書かれた時代以上に、いま観るとダイバーシティの受容というテーマにすっきりハマる。血縁関係も無視した人種の多様性は、やり過ぎのようで、皮肉も効いてて逆に楽しい要素となり、波乱万丈&ドタバタなノリを加速。天地さかさまの船の家などファンタジックな美術も功を奏し、主人公の感覚は「不思議の国」に迷い込んだ「アリス」に近いかも。
芸達者の中で、登場シーンからクセ者ぶりが際立つベン・ウィショーは、原作のイメージも覆す愛おしさで、これぞ演技の醍醐味。
苦心が伝わる邦題。たしかにこれ、タイトル付けは難しい。
大河ドラマを彩るクセがスゴいキャラたち
『さすらいの旅路』『孤児ダビド物語』など、これまでも日本公開は原題と無縁だったイギリス文学のリメイク。波乱万丈すぎる大河ドラマを、120分で描き切るテンポの良さもさることながら、当時の時代背景をガン無視し、いろいろとクセがスゴいキャラをインド系のデヴ・パテルやアジア系のベネディクト・ウォンら、さまざまな人種の俳優が演じる多様性な面白さ。原作ありきのジョークやわちゃわちゃ感は賛否分かれるところだが、かなり悲惨なエピソードも笑って流せるあたりは、モンティ・パイソン要素が入った『スターリンの葬送狂騒曲』の監督ならではといえる。もちろん、ベン・ウィショーの髪型……いや、怪演にも注目。
英国の個性派オヤジ俳優2人の奇人ぶりが絶妙
やっぱり英国は奇人の宝庫。そして、それをきっちり演じる個性派俳優たちが揃ってる。英国が誇る文豪ディケンズの名作「デイヴィッド・コパフィールド」を、人種にとらわれないキャスティングで映像化するという意欲作の中、ひときわ光を放つのが英国が誇る個性派オヤジ俳優2人、「Dr.HOUSE」のヒュー・ローリーと「ドクター・フー」のピーター・キャパルディ。風貌からして19世紀英国の風刺画に描かれた人物がそのまま実写になったような2人が演じる、ディケンズの小説でも有名な奇人たち、奇想家ミスター・ディックとお気楽者ミスター・ミコーバーは絶品。さらに、ティルダ・スウィントン、ベン・ウィショーら共演陣も豪華。