ビバリウム (2019):映画短評
ビバリウム (2019)ライター5人の平均評価: 3.8
目の付けどころがユニークな不条理ホラー
ビバリウムとはアクアリウムやテラリウムのように、生息環境をそっくり再現して生物を飼育する施設や設備のこと。本作の主人公カップルが迷い込んだ、作り物のように完璧な住宅街などは、さながら人間を飼育するためのビバリウムだ。そこへ閉じ込められてしまった2人は、まるでカッコウが別の個体に托卵させるがごとく、見ず知らずの赤ん坊を育てることとなる。これが種の保存という本能に従って生きる動物なら適応できるのかもしれないが、しかし人間はそんな単純な生き物じゃない。本作で描かれる恐怖の根源はそこにあるだろう。目の付けどころが面白い不条理ホラーだが、アンソロジー物の1エピソード向きだったようにも思う。
作り込まれた恐怖世界ににじむ、人生の無益
70年代ホラー風のオープニングクレジットの字体に引き込まれ、アリ・アスター作品をより人工的にしたような、作り込まれた世界に酔う。これは面白い。
未来を暗示するヒナ鳥の不吉なエピソードに導かれ、不条理な世界をさまよう主人公たち。それはスリリングであるのみならず、人の一生の風刺にも見えるのがミソで、物語には恐怖と寓話性が宿る。
人生の無益を歌ったXTCの名曲“コンプリケイテッド・ゲーム”を終幕に配している点からも毒のキツさは想像できるだろう。本作の主人公と同じ、トムという名も歌詞に登場するが、この曲が本作にあたえた影響はかなり大きいのかもしれない。
いろいろな角度から解釈できる不条理ホラー
斬新な設定の面白さや目を見張る美術など、本作と同年にシッチェス映画祭に出品された『プラットフォーム』にも通じる、“世にも奇妙な”不条理ホラー。『エクソシスト』にも影響を与えたルネ・マグリットの絵画「光の帝国」からヒントを得た屋敷や奇声を発する子どもの存在など、マリオ・バーヴァ監督の『ザ・ショック』を思い起こすなか、ダリア・ニコロディばりにブッ壊れていく美人妻役のイモージェン・プーツは見どころだ。タイトルや住宅地の名称、エンドロールに流れるXTC「Complicated Game」まで、いろいろな角度から解釈ができるなか、最大のヒントは冒頭から不穏な空気を漂わせるカッコウの托卵といえる。
想像力を駆使したい独創的な野心作
あのスティーブン・キングが驚いた、というのも納得の野心的で独創的な物語だ。新居を探すカップルが案内された新興住宅地の街並みを見て、ディズニーによる理想住宅「セレブレーション」を皮肉った風刺劇なのかと思ったら、大間違い。迷宮に閉じ込められたカップルが恐怖と疑心暗鬼で疲弊していき、SF的としか思えない子供の存在が二人の神経を逆撫でする。カップルが住まわせられる9番地の住宅は果たして地球なの? なぜ二人は代理親に選ばれたの? 時間経過も含めて全てがミステリアスで、想像力がフル回転する。これぞ映画鑑賞の楽しみ!人工的な街並みや加工食品へもアンチをはじめ、現代社会への揶揄がぎっしり詰まった傑作。
端正な迷宮の中で恐怖が静かに膨れ上がる
何かのメタファーとしても見られるし、侵略SFとして見ることも可能。主人公たちが遭遇する存在が決定的に異質なものだと痛感させる衝撃的瞬間があるのに、最後には、果たしてその存在の行為は自分の行為とは違うのかという問いを投げかけてくる。
監督ロルカン・フィネガンが1話完結のSFTVシリーズ「ブラック・ミラー」出身なのも納得、本作もあのシリーズ同様、ちょっと寓話的でブラックなテイスト。そのうえで、映像はグレードアップ。同じ形の家が並ぶ奇妙な町の整然とした静かな光景。それが延々とどこまでも続き、その中をどの方向に向かっても町の外に出られないという閉塞感。端正な迷宮の中で恐怖が静かに膨れ上がる。