トムとジェリー (2021):映画短評
トムとジェリー (2021)ライター5人の平均評価: 3.2
実写に紛れ込んでも、彼らは彼らだった!
原作のアニメが持つアップテンポの魅力を損なうことなく実写に融合。現代のマンハッタンを舞台にしても、軽妙な面白さは変わらない。
動物キャラのみがアニメーションで、それ以外は基本的に実写。TV版と同様、トムとジェリーにセリフをあたえず、動きにすべてを託す。そんな面白さを再発見した。
実写パートもこのノリに寄せており、とりわけヒロイン、クロエの妙演は光る。リアルなドラマではオーバーアクションにもなりかねない表情豊かな演技は、本作では漫画のひとコマのようにピタッとハマった。トムジェリとのかけあいもリズミカルで、難しいことを考えずに楽しめる。
オリジナル通り2Dアニメにしたのは大正解
近年、ハリウッドで、実写とのハイブリット映画では3Dアニメにするのがお約束。今作は、オリジナルより洗練されつつも、2Dを保ったところが何より正解。ほかの動物が喋ってもトムとジェリーは喋らないことや、お得意のスラップスティックコメディもオリジナル通りで、思いきりノスタルジアを感じさせる。ただ、もともと短編だったものを1時間40分に引っ張るために頼らざるをえなかった人間のストーリーの部分が、やや物足りない。とくに、スカヨハの夫ことコリン・ジョストは「サタデー・ナイト・ライブ」の人気コメディアンなのに、笑わせたり、チャーミングさを発揮したりするチャンスが与えられず残念。
視覚的ギャグの魅力を現代のリズムでアップデート
もともと1940年代に生まれたアニメ「トムとジェリー」にはセリフがなく、その魅力の真髄は"動き"と"リズム"と"視覚的ギャグ"で見せる、いわば"音楽"だった。その魅力は、現代を舞台に俳優たちと共演する実写映像でも描くことができるのか。本作はその難関に大胆に挑戦して見事成功。トムとジェリーの体が物体に変形したり、眼球の中をキャラが通ったりするギャグ表現はあえて昔と同じで、テンポとリズムはアップデートされているから、今見ても楽しい。冒頭のトムとジェリーが別の土地からNYにやってきて住む家を探すという設定も、2人が活躍した時代から現代にやってきて、魅力を発揮しやすい形式を探す姿にも見えてくる。
NYで仲良くケンカ
トムジェリを始め、2Dアニメとして描かれるすべての動物が実写と見事に融合。おなじみの大騒動や音楽ネタなどのファンサービスもあり、観ていて心地良いものの、気づけば何も悪くないのに徹底的にやられるトムが気の毒に……。『TAXI NY』『ライド・アロング~相棒見習い~』など、バディムービーが得意のティム・ストーリー監督作らしい展開にはなるものの、核となる「セレブのインド風結婚式」など、いかんせん脚本の面白味に欠ける。マイケル・ペーニャやケン・チョンも生かし切れずといったところで、『ルーニー・テューンズ:バック・イン・アクション』のジョー・ダンテ監督ぐらい狂った遊び心が欲しかった。
この世界を観たい人の欲求に応え、融合ならではの素直な楽しさ
トムとジェリーの楽しさを実写の世界に埋め合わせる作業として、アホらしいほど多くの策を駆使する、おなじみの追いかけっこの芸、ピタゴラスイッチ的な罠の仕掛けなどなどが、いい感じの「しつこさ」を保ち、物語に乗って挿入。お約束どおりとはいえ、メインキャラ以外のアニメの動物たちの豪快な行動も含め、予想外に素直に笑ってしまった。
実写部分のヒロインの奮闘は確かに自分本位で、ご都合主義な展開もあるけれど、アニメとの融合が、物語のありえなさを薄めていく。
ウディ・アレンの『マンハッタン』のベンチをはじめNYの隠れ名所や、マニア心をくすぐるネタや固有名詞も発見できたりと、映画的喜びも意外や意外、多かったりも。