プラットフォーム (2019):映画短評
プラットフォーム (2019)ライター3人の平均評価: 4
トリクルダウンで実際に何が起きるかを暴くスペイン産ホラー
プラットフォームと呼ばれる食事を乗せた台座が、上の階層から順番に降りてくる謎の施設。本来であれば、食事は各人が「必要な分」だけを摂れば全ての階層に行き渡るはずなのだが、しかし実際は上層階でほぼ食い尽くされてしまい、人々が空腹と絶望で正気を失った下層階では殺し合いの阿鼻叫喚が繰り広げられる。ディストピア的なシチュエーションに現代社会の階級構造を投影しつつ、トリクルダウンの非情な現実を凄まじいバイオレンスで描き出す問題作。ミニマルな設定で鋭く社会を風刺するスペイン産ホラーといえば、『電話ボックス』(’72)という衝撃の傑作短編映画が存在するが、本作はその系譜に属すると言えるかもしれない。
ダンテとヴィルヌーヴの影響を受けた“ポスト『CUBE』”
いかにも『CUBE』を発掘した「シッチェス・カタロニア映画祭」が好みそうなソリッド・シチュエーション・スリラーであり、日本でも同じクロックワークスが配給したのも頷ける怪作。現代の資本主義、格差社会に鋭く切り込んだ、食欲だけでない究極のグルメ映画でもあるが、ここまでグロく、暴力的かつ、汚物まで登場するものの、そこまで下品に見えない。それは状況設定がダンテ「神曲・地獄篇」の影響を受けているからか。それとも、美術など、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の短篇『華麗なる晩餐』の影響を受けているからか。終盤にかけての失速感は否定できないが、観終わった後、きっとパンナコッタを見る目が変わる一本である。
縦型の舞台が、そのまま現代社会にリンクする!
ミステリアスな不条理性や幾何的な舞台設定に『CUBE』のような魅力を漂わせながら、本作は現代的な問題を提起してくる。
ワンフロアにふたりだけ、居住フロアは月ごとにシャッフルされ、下層に行けば行くほど飢えはヒドくなる。時に残酷で、時にえげつないバイオレンスは、醜い争いを止められない人間の本質や、貧国の残虐性を象徴しているかのようだ。
連帯を訴える主人公の理想も、飢えと侮辱がはびこる“縦社会”には響きにくい。ソリッド・シュエ―ション・スリラーの型式を借りて、社会の今を見据えた力作。ジャンル映画とテーマ性を絶妙にブレンドしてみせた新鋭G・ガステル=ウルティアの名は、ぜひとも覚えておきたい。