ブックセラーズ (2019):映画短評
ブックセラーズ (2019)ライター4人の平均評価: 4.5
『マイ・ブックショップ』や『騙し絵の牙』等とぜひ併せて
かまやつひろしの名曲『ゴロワーズを吸ったことがあるかい』ではないが、何かに凝ったり狂ったりしている趣味人(>Seller)の「常軌を逸した」姿を観ると幸福な気持ちになる。デジタル化が急速に進む時代、コレクション対象の「モノ」は石油のごとき有限の資源で、90年代の雑誌もネオヴィンテージになっているのはレコードや古着も同じ。マニアの世界はどのジャンルも似てくるのだ。
つまりこの問題提起は書籍の世界だけに留まらない。本作の格好のサブテキスト『都市を歩くように』がNetflixで「すぐ観られる」のは皮肉だが、今の我々には大きいネットワークの簡便性と小さな場のリアリティの共存やバランスが試されている。
本はただ読むだけのものじゃない
ニューヨークの老舗書店のオーナーから古書ハンター、さらには希少本コレクターから図書館のキュレーターに至るまで、本を心から愛して我が人生を捧げ、埋もれた本を発掘したり新たな価値を発見したりしながら、人類の英知と記憶の詰まった書物の豊かな文化を次世代へと繋いでいく人々の奥深い世界を取材したドキュメンタリー。豪華な装丁の施された希少本の美しさや、複数の版を比べることで見えてくる歴史など、実に興味深いエピソードが盛りだくさんで、改めて本というのはただ読むだけのものじゃないと痛感させられる。人の皮で作られた本にもビックリ。書店で本を手に取ることの喜びを知る全ての人々に見て頂きたい一本だ。
本を愛するすべての人がにっこり!
電子書籍は便利と思いつつも、手に取りたいのは紙の本というオールドスクールな人でなくても魅了されるドキュメンタリー。希少本や豪華なアンティーク本専門のバイヤーや老舗書店の経営者、有名評論家らが次々に登場し、本に対する偏愛を熱く語る。個性的な人ばかりで、ユニークな逸話の宝庫だ。特殊なジャンルの古書に特化したセラーや革装丁専門のバイヤー、ブックハンターと意外と知られていない本の世界を垣間見ることもでき、作品自体が本の百科事典のよう。書籍特有の匂いや紙の質感、書体や級数、字詰めやイラストなどにこだわったブックデザインもろもろを含めて本が好きな人なら絶対に頬が緩むはず。
自分の好きなものについて語る人たちは表情がいい
自分の好きなものについて、それをただ純粋に好きな人が熱く語るのは、見ているだけで気持ちがいい。この映画の場合はその対象が"本"なので、本が好きな人ならもちろんそれだけで楽しいが、本に限らず、何か心から好きなものがある人なら"その気持ちは分かる"と共感する部分があるのではないか。
とはいえ、登場するのはただのコレクターでなく本の売買を生業とする人々。なので、本への愛だけではやっていけない部分も語られるが、それを聞いてもやはり"好きでこそ"の仕事に思えることには変わりがない。リアル書店の存続が危ぶまれる現状を踏まえて歴史の変化をも映し出しつつ、登場人物がみな、本の未来を信じているのも心地よい。