ベル・エポックでもう一度 (2019):映画短評
ベル・エポックでもう一度 (2019)ライター3人の平均評価: 3.7
消えかかった愛は再び燃え上がるのか?
後ろ向きすぎて妻から追い出されたビクターがある体験で活力を取り戻すまでをコミカルに描く大人のラブコメ。体験型エンタメ(?)で“人生がもっとも輝いていた”時代を追体験し、若き日の妻を演じる女優マーゴと絆を培うビクターを演じるD・オートゥイユが実にチャーミング。妻役のF・アルダンは相変わらずコケティッシュで、素敵だ。ビクターの変化が周囲を変えるのはお約束だが、消えかかった愛を再燃させるのは難しいと懐疑的にならずにはいられない。一方、依存度が高いエンタメのせいでビクターの勤労意欲が上がる展開や凝り性のクリエイターと女優の関係性、妻の愛のない浮気にはニヤリ。フランス映画好きにはたまらないはず。
人生を粋に、ユーモラスに語る選曲の妙
セットや役者に囲まれて過去を体験できる、映画のようなエンタテインメント……というビジネスの存在が、まず面白い。
これを通して、老いた主人公は不仲となった妻との若き日のなれそめを追体験。妻役の女優がカフェで歌うジャニス・ジョプリンの“ミー・アンド・ボビー・マギー”。そこでは「自由とは失うものが何もないこと」と歌われる。
対して、映画のメインテーマ的な“オールウェイズ・サムシング・ゼア・トゥ・リマインド・ミー”には「僕は自由になれない、君の一部だから」という詞が。歳をとるとことは、失うものが多くなるということでもあるのだなあと考えた。ともかく音楽の使い方が上手い、粋なラブストーリー。
人間は幾つになっても変化を受け入れるって大事
かつては時代の寵児だったものの、いつしか社会の変化についていけない頑固老人となり、逆に変化を受け入れてビジネスに成功した妻から見放されてしまった元人気イラストレーター。そんな彼が映画セットやエキストラを使って好きな時代に戻れるタイムトラベルサービスを利用し、妻と最初に出会った懐かしき’74年を追体験する。といっても過去を美化するお話じゃない。象徴的なのは「昔は平和で単純で良かった」と懐かしむ夫に対し、「レイプが多くて中絶が違法で嫌な時代だった」と切り捨てる妻の台詞。若かりし頃の初心を忘れないことも大事だが、時代と呼応して自らをアップデートすることも怠ってはならない。老害と呼ばれないためにも。