ビルド・ア・ガール (2019):映画短評
ビルド・ア・ガール (2019)ライター6人の平均評価: 2.8
主演の魅力で引っ張られる。そこからツボに入れるか?
『ブックスマート』の余韻とともに、主演がB・フェルドスタインでなかったら成立しない、唯一無二のキャラとの一体感。カメラに向かって、われわれ観客を強引に巻き込もうとする彼女の得意芸が全編に炸裂しまくるので、その魔力にハマれば、ややイタい主人公の逆転サクセスストーリーに寄り添えるかも。ただ、「共感」のポテンシャルは、やや低め。そもそも音楽ライターになりたい動機が弱いし、失敗や挫折からの復活もあっさりだったりと、成長曲線が曖昧なので、主人公の奮闘が最後まで独りよがりに見えてしまう。そして音楽を最重要トピックにしながら、その音楽が効果的な役割を果たしたり、作品を盛り上げたりしないのが、残念…。
90sUKロックとヒロインの個性で押し切り勝ち
原作者で脚本も手がけたC・モランの生の言葉が活きた、快活にしてユーモラス、かつ赤裸々な青春ドラマ。
彼女の実体験に基づいていることもあるが、主人公のドラマがリアルで、かといって重すぎず。壁に貼られた彼女のヒーローたちの絵や肖像との会話にはファンタジーの味も宿る。
主人公がカメラと向き合うラストの長セリフをはじめ、言葉で説明し過ぎるきらいもないでもないが、B・フェルドスタインの圧倒的個性と、当時のヒット曲の高揚感で押し切り、後味は心地よさが勝る。冒頭に流れるエラスティカの曲は当時まだリリースされてないのでは?などの時代考証の微妙な危うさは、この際置いておきたい。
ビーニーのエネルギーで成長物語がパワーアップ!
文才があるのに冴えない女子高生ジョアンナをB・フェルドスタインがエネルギッシュに演じ、その才能に魅了される。自己実現に焦るあまりの失敗や初恋の描き方は凡庸かもしれないが、ある一線を超えながらも善良さを失わないヒロイン像はやはり共感度が高い。家族との温かな関係性も効いている。ぽっちゃりボディにゴミ袋で作ったビキニだけを身につけたヒロインがスノッブな同僚に向かって啖呵を切る場面と労働者階級ロック歌手の「生まれた場所に人生を左右されるな」のセリフには大喝采! A・アレンの歌唱力はうれしい驚き。衣装や美術はもちろん、90年代ブリット・ポップシーンを再現する音楽など見どころ多数だ。
妄想ヒロインが、音楽ライターとして覚醒
“女子版『あの頃ペニー・レインと』”に、“音楽ライター版『ジョージアの日記/ゆーうつでキラキラな毎日』”と、いくらでも面白くなる業界サクセスストーリー。実年齢よりひと回り下の妄想癖が強いヒロインを難なく演じるビーニー・フェルドスタインが、とにかくスゴい! ちょいちょい盛り込まれた音楽ネタに加え、家族や編集部の面々などのキャラもなかなか濃ゆい。ヒロインが「先に進むには嫌われる覚悟も必要」と、辛口批評家として方向転換し、若さゆえ暴走してしまうなど、いろんな教訓も踏まえた成長物語なのだが、TV界出身のコーキー・ギェドロイツ監督の実力不足なのか、どこか薄っぺらく感じてしまうのも事実。
音楽ファンが同人誌を作っていた時代の甘酸っぱいストーリー
原作・脚本は、90年代に英音楽誌「メロディ・メーカー」の最年少音楽ライターとなったキャトリン・モラン。90年代、まだ音楽ファンが雑誌を読み同人誌を作っていた時代、英国の田舎の16歳女子が憧れの音楽ライターになるが、予期せぬ失敗も待っていて、というストーリーは、まるで当時の音楽ファンの妄想を映画化したような甘酸っぱさ。実在のバンド名がセリフに多数登場するのにもニヤリ。英国男優揃いで『ゲーム・オブ・スローンズ』のシオン役アルフィー・アレンが人気ミュージシャン役、『フィアー・ザ・ウォーキング・デッド』のニック役フランク・ディレインが編集者役。パディ・コンシダイン、クリス・オダウドもいい味。
共感できるテーマを持つ青春ファンタジー
ひとひねりきかせた成長物語。高校生が華やかで過激な音楽業界に入っていくところは、やや「あの頃ペニー・レインと」も思わせる。田舎の貧乏暮らしや学校がつまらなくてもっと広い世界に行きたいという気持ちや、本当の自分ではない自分を演じてしまうというのは、多くの人が共感できる設定。主人公ジョアンナは、それを極端な形で実現させてしまう。半伝記的ストーリーということだが、ファンタジーの要素がかなり強く、それを自然に受け入れられるかどうかは観る人次第。変わっていくジョアンナに思い入れできるか微妙になることもあるものの、エネルギッシュでコミカルなビーニー・フェルドスタインが引っ張っている。