ブルー・バイユー (2021):映画短評
ブルー・バイユー (2021)ライター3人の平均評価: 3.3
タイトルとなった名曲。心癒すメロディが脳内リフレインする
アメリカの移民政策の落とし穴を描くという、まさに“今の時代”にアピールするテーマだが、温かい人間ドラマのテイストを漂わせながら描いており、ガチな社会派作品という印象は少ない。登場人物の切実さに寄り添いながら観続けられる。
血の繋がらない娘の気づかいや、主人公の前科やワイルドな本能、同じアジア系女性の秘密、そして終盤の“決意”まで、心に刺さるエピソードがあちこちに。
ロイ・オービソンが作ったタイトルと同名曲は、故郷の恋人への想いを綴っているが、やけに主人公一家と重なるし、南部のムードともぴったりマッチ。そのメランコリックな曲調を、A・ヴィキャンデルが物憂げに歌うシーンは陶酔モノであった。
移民制度の問題点によって引き裂かれる家族の悲劇
トランプ政権下では、国境を越えてきた不法移民が子供と引き離される状況に脚光が当たった。今作は、あまり語られない、やはり非情なアメリカの移民制度の実態を描く。養子縁組で子供の頃にアメリカに来たのに、今さら母国に強制送還されるなんて本当にありえるのか。エンドクレジットの直前に出てくる実在の人々の写真が、その答を出す。スウェーデン人のアリシア・ヴィキャンデルがすっかり南部の女性として溶け込んでいるのは見事。愛し合う家族が現状に合わない法律のせいで引き裂かれるという話はそれだけで心を揺さぶるが、チョン監督はこれでもかと言わんばかりにラストでそこを強調する。考えさせるメロドラマ。
親の愛に疑念を抱いてしまう男の物語でもある
ニューオリンズで撮影された映像が、熟した果実のような鮮やかさで、柔らかく、たっぷり水分を含んでみずみずしい。主人公を取り巻く社会状況が厳しく過酷であるのとは対比的に、彼の暮らす土地は植物と水と生命力に満ちていて、それが主人公の生きようとする力と深いところで繋がっている。
米国の国外養子縁組制度の問題点を描く作品でもあるが、それだけではない。養子として育ち、自分は親に愛されなかったのではないかという疑念を抱く男が、血の繋がらない子供を愛し、ずっと抱えてきた傷を直視する物語でもある。彼が、極限状況の中で疑念への答を得る時の光景が、激しい豪雨と水の中で幻想的に描かれて、あまりにも美しい。