プリンセス・ダイアナ (2022):映画短評
プリンセス・ダイアナ (2022)ライター3人の平均評価: 3.7
メディアがどう報じたのかが浮かび上がってくる
対象がどのような人物だったのかを描こうとするのではなく、「その人物がメディアによってどのように報じられたか」を描く。このコンセプトがユニーク。
ドキュメンタリーにありがちな、ナレーションである視点を示すという演出はまるでなく、全編を当時のニュース映像のみで構成。本人自身が記者会見やメディアのインタビューで語る映像もあるが、それも膨大な量のニュース映像の一部でしかない。ニュース映像が対象をどのように映し出したのか、それをメディアがどのように報じたのか、それを表す映像が積み重ねられて、現代の有名人のイメージがどのように形作られていくのかについても考えさせてくれる。
生きていれば61歳。孫に囲まれた姿に思いを馳せる
衝撃の交通事故から25年。生きてれば今ごろ孫たちの“おばあちゃん”だったダイアナ。忘れていた記憶を甦らせてくれる正統派の作り。
王室での孤独感や、離婚への流れ、髪型からファッションまで当時のカルチャーに与えた多大な影響…と基本事項はわりと想定どおり。時折、挿入されるプライベート映像が新鮮かも。
ダイアナといえばパパラッチ。現在に至るセレブと報道の関係にもフォーカスするが、驚くのはダイアナ側もマスコミを“利用していた”とされる数々のエピソード。「放っておいてほしい、でも注目されたい」という複雑な心情がせり上がってくる。ただ、死の原因も含めて「深い闇」に切り込むタイプの作品ではなく、後味は美しい。
ここに映し出されるダイアナ妃に推測はない
このドキュメンタリーのために取った誰かのコメントも、ナレーションもなし。すでに存在する記録映像だけで綴る今作に、推測の要素はない。それがとてもパワフルなものにする。まず、ダイアナ妃の映像がこれほどあることに改めて驚いた。それだけ彼女は常に世間の目に晒されてきたということ。空港でパパラッチに執拗に追いかけられ、本当に嫌がっている彼女の姿は、見ていて心が痛む。生まれてくる赤ちゃんは男の子か女の子かと雑談する様子など、一般人の映像も多数折り込まれていて、純粋にダイアナ妃が好きだったにしろ、人々もまた彼女を追い詰めていたのではないかと思ってしまう。見終わった後も考えさせる、優れた作品。