ちょっと思い出しただけ (2021):映画短評
ちょっと思い出しただけ (2021)ライター3人の平均評価: 4.3
伊藤沙莉も池松壮亮も最高の仕事で、やるせなさを美しさに変えた
ダンサーの日常を知る筆者にも、この池松壮亮の夢と挫折、仕事への折り合いのつけ方の表現は、周囲に弱みをみせる劇的さに陥らない分、切ない内面が切に伝わる。池松、ダンスも敢闘賞。
伊藤沙莉は、タクシー運転手としての客との距離感、言葉遣いなど徹底してプロフェッショナルな雰囲気。同じように時間をさかのぼる展開で、ピュアな愛の原風景へ向かう『ボクたちはみんな大人になれなかった』のヒロインとシンクロしつつ、今回は彼女が主体として、やるせなさがじわじわ染みてくる。
最高のキャストを得た本作は、過去とどう向き合うか、その後悔もきっちり描き、時間と空間の両方で思い出が美しく刻まれる瞬間をやきつけることに成功した。
夏、始まりましたわ!
『ボクたちはみんな大人になれなかった』に続く、“伊藤沙莉の忘れられない前カノ映画”。全体の構成的には『ワン・デイ 23年のラブストーリー』×『(500)日のサマー』であり、さまざまな小道具を駆使した松居大悟監督による緻密な脚本が後半にかけて、ジワジワと染みてくる。劇中、ちゃんと登場する『ナイト・オン・ザ・プラネット』に加え、キーパーソンとして永瀬正敏も登場するジム・ジャームッシュ監督へのオマージュが激アツ。さらに、シーパラや高円寺など、ロケーションの素晴らしさに加え、特技のダンスを生かした役どころの河合優実、伊藤との掛け合いが笑いを誘うニューヨーク屋敷なども見どころだ。
ほろ苦い失恋についてのちょっとした強がり
まず、この『ちょっと思い出しただけ』というタイトルがいいじゃないですか。
昔の失恋について、ちょっと強がって思い出しているような感じが伝わってきて良いですよね。
もちろん、主演が池松壮亮&伊藤沙莉の組み合わせであることに加えて、監督が松居大悟ということで見る前から映画に好感を持っていたのですが、実際に映画を見るとそれが確実なものになってくれました。
脇のバイプレイヤーたちもとてもいい味を出してくれています。
コロナ禍が時代の大きな隔たりになってきたということにも色々感じる部分がありますね。