ブラックボックス:音声分析捜査 (2021):映画短評
ブラックボックス:音声分析捜査 (2021)ライター4人の平均評価: 3.5
“音”に集中させる演出も巧いタイトなサスペンス
まず興味を引くのは、航空事故調査の最前線で働く人々の仕事ぶり。旅客機墜落の真相が、どのようなプロセスを経て追及されるのか? 実際に調査局に取材してリアリティを追求した成果が見て取れる。
そして主人公の音声分析という仕事にフォーカスしたつくり。ボイスレーコーダーに残されたわずかな音も聞き逃さず、疑問を追求する主人公。その姿にふれると観客の側も“音”に集中せざるをえない。聴覚からもスリルを味わえる……というわけだ。
人付き合いの悪い主人公は、ざっくり言えばオタク。能力があっても社会性がなければ信用されない、そんなキャラの脆さも活かされ、長尺ながら引き締まったサスペンスが成立する。力作!
音声に隠された謎から真相を暴いていくフランス産ミステリー
安全なはずの最新型ハイテク旅客機が墜落し、乗客乗員の全員が死亡するという事故が発生。ブラックボックスを調べていた音声分析官は、ある不可解な点に気づいたことから陰謀の可能性を疑うものの、誰からも信じてもらえずに追い詰められていく…。テクノロジーの進歩による安全性の過信や、技術開発競争による熾烈な諜報戦の横行、大手企業と行政機関の癒着など、航空業界を取り巻く様々な闇に斬り込むストーリーは、『インサイダー』など告発型サスペンスの王道とも呼ぶべきもの。それゆえ、ある段階で先の展開が読めてしまうことは否めないが、しかし音声に隠された謎から事故の真相を暴いていくという視点は面白い。
謎解きサスペンスにユニークな味付けあり
事件の真相を探る音声分析官が、捜査の過程で誰が味方で誰が敵なのかを見失っていくというストーリーは、きっちり正統派の謎解きサスペンス。そこに、捜査の手掛かりが"音声"だという特殊性と、主人公の音声分析の天才だが人との付き合いが苦手で少々神経症的だという特異な性格が加わって、ユニークな味のサスペンスが楽しめる。
ドラマと並行して、音声分析とは実際にどういうことをするのかを描くシーンが、フランス民間航空事故調査局の全面協力による詳細さで描写されて、ドラマ「CSI:科学捜査班」的な面白さ。画面を見ながら思わず聴覚に集中してしまい、主人公の少し神経症的な性格の原因の一端に触れたような気になれる。
航空業界の裏側が見られるのも大きな魅力
二転三転し、どんどん意外な方に進んでいくテンポの良いサスペンス。主人公は、仕事熱心で優秀だが頑固者でもある音声分析官。彼が真実の解明に執着し、周囲も呆れるほど暴走していく様子は、見ていて引き込まれる。彼の目の付け所は正しいのか、それとも、はまりすぎてひとりで空回りしているだけなのか?話が進むうちに観る者を混乱させていくのも、ショッキングな結末も、実に上手い。ニュースで耳にする「ブラックボックス」というものが実際にはどんなものでどのように分析されるのか、飛行機事故の原因にはどういった可能性があるのか、現代の航空業界ではどんな人たちが活躍しているのかなど、裏側を見られるのも大きな魅力。