THE RESCUE 奇跡を起こした者たち (2021):映画短評
THE RESCUE 奇跡を起こした者たち (2021)ライター3人の平均評価: 4.7
自然の美しさと怖さをまざまざと感じる圧巻のドキュメンタリー
‘18年にタイの洞窟でサッカー少年とコーチの13名が冠水により閉じ込められ、世界中から集まった民間ダイバーたちが現地海軍や米軍に協力して救出作業に当たった事件。『THE CAVE サッカー少年救出までの18日間』という再現映画もあったが、こちらはタイ海軍が保管していた貴重な秘蔵映像を中心に構成されたドキュメンタリーだ。自然の美しさと同時に恐ろしさをまざまざと感じさせつつ、国籍や言葉の壁も越えて一致団結する人々の姿に普遍的なヒューマニズムを見出す。ダイバーたちの信念や心情を掘り下げる視点は、さすが『フリーソロ』の監督コンビならではだろう。奇跡は起きるのではなく起こすものなのだと痛感させられる。
先行配信では、タイトルが微妙に違うのでご注意を
オスカー受賞の『フリーソロ』では、ありえない高所恐怖感を収めた監督コンビが、今回は密室、および水中の「閉所恐怖感」を伝え、ドキュメンタリーらしい目的を達成。救出に参加したダイバーが、水中の狭い洞窟空間で幸福を感じるという、人間のユニークな心理も引き出すのは『フリーソロ』と似ている。
もちろんあのタイ洞窟救出劇がいかに過酷だったかを、内部の巨大構造、近づくモンスーンの危機、少年たちの運搬法とともに的確にとらえ臨場体験させる。何より、人間同士の連帯感という中心テーマがブレないので、観ていて、いい意味での安心感。
Disney+で先に配信だが、事情があるとはいえ日本語タイトルを統一してほしかった。
人間のすばらしさを凝縮した、希望をくれる映画
悪いニュースばかり聞かされて暗い気持ちになることが多い中、このドキュメンタリーは人間のすばらしいところをたっぷり見せてくれる。不可能なミッションを可能にしたのは、多くの人々の善意、勇気、画期的な発想、我慢強さ。別の国の見知らぬ子供達のために、政治も人種も忘れ、自ら犠牲を強いてまで協力できるのだから、捨てたものじゃない。記録映像はパワフルで、結末を知っているのに緊張感を失うことなく引き込む。関係者のインタビューには微笑んでしまったり、涙してしまったり。白人が有色人種を救う、いわゆる「White Savior」物語になるリスクも、すべての人に十分敬意を払うことでうまく避けた。