ヴォイジャー (2021):映画短評
ヴォイジャー (2021)ライター3人の平均評価: 3.3
次世代の若手キャストが火花散らす
原作がYA小説ではないものの、明らかにその原点である「蠅の王」をベースにしているSF密室スリラー。そのため、『カセットテープ・ダイアリーズ』のヴィヴェイク・カルラや「やりすぎ配信! ビザードバーク」のマディソン・フーなど、多様性に富んだ若手キャストが集結。男女混合だけに、思春期特有の戸惑いや集団心理の怖さだけでなく、色恋沙汰も描かれるのだが、それがなかなか巧く機能しないのは悔やまれる。そんななか『ゴヤの名画と優しい泥棒』の孝行息子から一転、完全に敵役に徹したフィオン・ホワイトヘッドが、MVPものといえる怪演を披露。ニール・バーガー監督作という意味では納得の仕上がりといえる。
根源的な善意と良心の価値を問うSF版「蠅の王」
地球温暖化によって環境破壊が深刻化した近未来。人類は移住可能な惑星を調査するため、人工授精で生まれた30名の若い男女を宇宙船に乗せて送り出す。プロジェクトの管理下で育てられた彼らは、性欲や暴力などの衝動を抑える薬品を秘かに飲まされていた。ところが、一部の若者がそれに気づいて薬の服用を止めたことから、やがて船内の秩序が崩壊してしまう。いわば宇宙版『蠅の王』。初めて自我に目覚めた温室育ちの若者たちが、無知ゆえの疑心暗鬼に陥って互いに対立し、いとも簡単に扇動され暴走していく。問われるのは根源的な善意と良心の価値。陰謀論やフェイクニュースが瞬時に拡散してしまう時代社会に警鐘を鳴らす作品と言えよう。
白く無菌の宇宙船内部が、やがて迷路になる
幼児期からずっと宇宙船で暮らして思春期を迎えた30人の少年少女たち。薬物により制御されていた彼らの本能が解き放たれて生じる宇宙船版「蠅の王」なのだが一捻りあり、船内で起きる異常事態は、謎の侵入者の仕業にも見え、誰かの妄想または陰謀にも見える。監督・脚本は『幻影師アイゼンハイム』のニール・バーガー。宇宙船内の、光沢のある白い無機質な壁、狭い通路ばかりの閉鎖的な構造が、少年少女の心理を象徴。彼らが本能に目覚める時の心象風景も鮮烈だ。
主演の2人に加えて『ダンケルク』のフィオン・ホワイトヘッド、『ゲーム・オブ・スローンズ』の車椅子のブランことアイザック・ヘンプステッド・ライトが好演。