エルヴィス (2022):映画短評
エルヴィス (2022)ライター8人の平均評価: 4.5
エンタメ天国、ベガス地獄
30年前ならオリバー・ストーン監督が撮りそうなミステリー仕立ての伝記映画だが、シーズン1での打ち切りが悔やまれるドラマ「ゲットダウン」を経たバズ・ラーマン監督作なのが肝。見世物小屋と紙一重なエンタメ業界の描写は『ムーラン・ルージュ』と地続きで、今度も愛と悲劇のドラマが待ち受ける(公爵だったリチャード・ロクスバーグはダメ親父役!)。極悪マネージャーを演じるトム・ハンクスの独壇場かと思いきや、おなじみの空手ポーズなど、全身全霊でエルヴィスを演じたオースティン・バトラーが大健闘! なかでも復活の狼煙を上げるTVショー「68カムバック・スペシャル」のシーンは息を呑むほど素晴らしい。
めくるめく映像と音楽の洪水を堪能すべし!
ロックンロールを世界的にメジャーな大衆音楽へと押し上げ、名実ともに20世紀最高のスーパースターとして今なお愛されるエルヴィス・プレスリー。その伝記映画である本作では、悪評高いマネージャー、パーカー大佐を狂言回しに、輝かしい栄光の日々ばかりではなく、その一方で時代に翻弄され商業主義に搾取されたプレスリーの光と影を描くわけだが、文字通り万華鏡のように煌びやかで豪奢で自由自在な映像テクニックをフル稼働しながら、大河ドラマ並みにボリュームのある物語を一気に見せていくバズ・ラーマン監督の演出に、ただただ圧倒される。めくるめく映像と音楽の洪水を、映画館の大画面で浴びるように堪能すべき作品だ。
表現の魅力もそのままに、ラーマンが物語で勝負する!
賞レースが賑わう時期に公開されても良いのでは……そう思わせるほど念入りに作りこまれた力作。
これまで映像と音楽の華やかな融合が取りざたされがちだったB・ラーマンだが、ここでは本格的にドラマを語ろうとしていることに驚かされた。大佐の視点で描かれる物語は、ひとりの人間の支配力について大いに考えさせ、なおかつプレスリーの死の“真相”をも浮き彫りにする。
A・バトラーも、T・ハンクスも、当人に全然似てないなあと思って見始めたが、見終わってみるとそのイメージがしっかり付いている。彼らの演技も賞レースが好みそうだが、とにかく役者陣も力が入っていて歯応えアリ。
見終わった後、ずっと余韻が残る
ミュージシャンの伝記映画は、たとえ優れた作品であっても、どこか似通ってしまうもの。だが、これはまるで違う。派手な出だしでいきなり引き込み、その後も強烈なカラーが来たり、モノクロが差し込まれたりと、刺激的な映像と音楽で引っ張っていく。良い意味でぎっしり詰まっていて、多少欠点があったにしても勢いで飲み込まれてしまう感じだ。こんな映画を作れるのはラーマンしかいない。ここで描かれるのは、世界の大スター、エルヴィスが置かれていた、悲しくて不条理な状況。彼を通じて、人種差別をはじめとするアメリカ社会の問題についても見つめていく。見終わった後もずっと余韻が残り、考えてしまう映画。
独りの人間としての王様
伝説的なスーパースター・エルヴィス・プレスリーの生涯の物語。バズ・ラーマン監督が実話ベースの物語の映画化は果たしてどうなのだろかと思いましたが、エルヴィスが活きた時代性もあってか監督の極彩色のセンスとの相性も良く、非常にゴージャスな映像の波を浴びることができました。
そして、なんと言ってもキング=エルヴィスを演じ切ったオースティン・バトラー。歌唱シーンも含めて大熱演を見せてくれました。『ボヘミアン・ラプソディ』のラミ・マレックを思い起こさせる存在感でした。気が早いですが、賞レースに向けて名前と顔を覚えておきましょう。
バズ・ラーマン監督が繰り出す熱が感覚器官を直撃する
本編の前から、製作会社のロゴもスタジオのロゴも、密集する発光装飾素材でギラギラ輝き、それがエルヴィスのラスベガスでのショーの衣装を連想させた瞬間、バス・ラーマン監督による華麗なショーが開幕。後はただ、監督が繰り出してくる圧倒的な熱量の波に翻弄されるばかりの魅惑の2時間39分。あるミュージシャンとマネージャーの話でもあり、アメリカの近代史を描く物語でもあるが、ラーマン監督によるショー論、エンタメ論として見ると興味深い。奇跡が起きるステージは見世物小屋の隣にあり、舞台に立つパフォーマーは、観客たちからエネルギーを与えられて輝く。そのありようが音と映像で描かれて、感覚器官に直接伝わってくる。
バズ・ラーマンでしか味わえない世界
ピンク色のオーバーサイズスーツにケバいメイク、腰を痙攣したように振りながら歌う最初期のE・プレスリー(オースティン・バトラー、鮮烈!)。今回バズ・ラーマンが採用したイメージは「グラムロックの元祖」としてのエルヴィスではないか。そこで聴衆に性的な電気ショックをもたらした彼は、まもなく「人種融合」的脅威のシンボルとして政治的な緊張感を湛えていく。
お話は語り部となる悪名高きマネージャーのトム・パーカー大佐(トム・ハンクス、怪演!)との愛憎を主軸にしたもの。ミステリー調伝記映画には違いないが、エルヴィスの『明日への願い』をカヴァーするマネスキンなど怒濤のサントラを含め、監督固有の表現が光る。
カリスマの“超越再現”で、全身に電流が走る瞬間が何度も
いくつかのステージのシーンは、エルヴィスを集中して見せるというより、周囲のドラマや会話をあえて絡めたり、その時、彼に去来する過去を重ねたりと、こだわりの演出・編集で『ボヘミアン・ラプソディ』などと別次元のカタルシスを導く。
エルヴィスのキャリアでも重要となったパフォーマンスでは、演じるオースティン・バトラーの熱唱が当時のアーカイヴ以上に魂を揺さぶり、めまいがするほど。肉体全体のムーヴメントには明らかにカリスマが宿っており、本人映像が瞬間的に混ざるシーンは異様な感動をもたらす。
監督が監督だけに人物の心の深みには入っていかないが、それを差し引いても音楽映画としての興奮度は奇跡レベルではないか。