セイント・フランシス (2019):映画短評
セイント・フランシス (2019)ライター3人の平均評価: 3.7
グレタ・ガーウィグ作品を彷彿とさせる女性映画の佳作
34歳で独身の平凡な女性フランシスは、学歴も彼氏も人生の目標もなく、日々漠然とした不安を抱いている。そんな彼女が、アルバイトで幼い少女の子守を任されるわけだが、その少女の両親がレズビアンという設定が本作の鍵だろう。世間から向けられる偏見を意識し、完璧な親であらねば、完璧な家庭を築かねばというプレッシャーに苦しむレズビアンカップル。そんな2人を時に励まし、反対に彼女らから励まされることで、フランシスは「大人の女性ならばこうあるべき」という社会に植え付けられた固定概念から解放されていく。グレタ・ガーウィグを彷彿とさせるナチュラルな演出と、迷える現代女性に注ぐ優しい眼差しに好感が持てる佳作だ。
笑わせながらシリアスなトピックに触れていく
設定から、子供と心を通わせる中で何かを発見するというありがちな話かと思ったら、嬉しい形で裏切られた。まず主人公のブリジットがとてもリアル。フェミニストを自認する彼女はモダンな生き方をしているが、褒められない行動を取るし、間違いもおかす。中絶という決意もあっさりと下すが(今のアメリカで中絶をこんなふうに取り扱うのもあっぱれ)、だからといって何も感じていないわけではないのだ。ほかにも、産後うつや避妊、人前での授乳など、現代の女性が直面する問題を、観客を笑わせつつ触れていくやり方は、実にうまい。すごく共感でき、感動できる映画。今作で脚本家デビューしたオサリヴァンの次回作が今から楽しみ。
6歳の女の子の真っ直ぐな目が本質を見抜く
34歳のブリジットが、子守をしている6歳の女の子フランシスに、ある日、自分が気づいていなかった長所を指摘され、胸を突かれる。そして、自分自身が自分について無意識のうちに偏見を抱いていたことに気づかされる。率直で自由気ままな6歳の女の子の、まだ世間の通念に曇らされていない真っ直ぐな目は、本質を見抜くのだ。
それと並行して、子供を持つということ、中絶、産後鬱、同性婚、同性愛嫌悪などの問題が、特殊なものではなく、あたり前のものとして登場。主人公たちは、ある時は楽々と、ある時はかなり苦労しながらそれらに向き合っていく。その時のユーモアを忘れず肩に力を入れすぎない、タフな姿勢がいい。