七人樂隊 (2021):映画短評
七人樂隊 (2021)ライター5人の平均評価: 3.4
古き良き香港への郷愁が滲み出る巨匠たちのオムニバス
まだ映画をフィルムで撮っていた時代の香港をテーマに、香港を代表する7人の監督が7つのストーリーを紡いでいくオムニバス映画。個人的に一番のお気に入りは、香港ニューウェーブの旗手パトリック・タンが、まさにあの時代を鮮やかに再現した第3話「別れの夜」。主演のイアン・ゴウが若き日のレスリー・チャンを彷彿とさせるのも胸キュンだ。ていうか、山口百恵の「秋桜」の広東語カバーって男女の別れの歌だったのね。素朴な時代の学校生活を描いたアン・ホイの「校長先生」や、変わりゆく香港への郷愁が詰まったリンゴ・ラムの遺作「道に迷う」も胸に染みる。全体的に古き良き香港を懐かしむ傾向が強いことの意味にも思いを馳せたい。
7人の監督が描く、香港の情景と香港人の心
『七小福』の1エピソード的なサモ・ハン監督作から始まる、香港の情景と香港人の心を描く7人の監督による“七重奏”(当初のジョン・ウー監督作を含む、『八部半』から改題)。あえて今、香港ニューウェーブな演出でド肝を抜くパトリック・タム監督のメロドラマから流れが変わり、『奪命金』の前日譚的な面白さもあるジョニー・トー監督の金融コメディでピークに達し、落語のようなツイ・ハーク監督のメタ・コメディで着地。作品の好みは人それぞれだが、製作から公開(香港公開は今年7月)までの8年間に、リンゴ・ラム監督の死以外にも、あまりにいろいろありすぎたことで、そのテーマ性や背景が染みる一作に仕上がっている。
香港のさまざまな顔を監督7人が描く
『ザ・ミッション 非情の掟』のジョニー・トー監督が、自分と同じ香港の監督たちに声をかけ、それぞれの時代の"香港"を描いたオムニバス。香港の1950年代をサモ・ハン、1960年代をアン・ホイ、1980年代をパトリック・タム、1990年代をユエン・ウーピン、2000年代をジョニー・トー、2010年代をリンゴ・ラム、未来をツイ・ハークが、独自の視点から切り取った物語は、各監督それぞれの持ち味も興味深く、ユーモラスな情景から胸を打つ物語まで多彩。そのうえ、どんな場面を見ても、こうして描かれている香港が今は別の場所になっていることを思わずにはいられず、するとどの物語もさらに味わいが深くなる。
カンフーから中国返還、未来まで、香港の巨匠たちの魂を感じる
各時代を割り当てられた7人の巨匠。それぞれのスタイルで伝えようとする香港への思慕は、一本が15分程度なのでヘビーにならず、観やすい構成かと。
自身の志向がわかりやすすぎるサモ・ハン。志向を守りつつ、誰でも入り込みやすく演出するウーピン。そして知らずに観たら誰が撮ったかわからないジョニー・トー…と、監督の個性を重ねながら観れば、より微笑ましく、エモーショナルに変換されそう。
完成後に起こったコロナ禍を予言するような描写には驚いたが、全編に通底するのは香港の“良き時代”へのノスタルジー。その最高例が6本目のリンゴ・ラム作品で、本作を撮った後、彼だけがこの世を去った事実がダブり、胸が締めつけられた。
香港へのラブレター
香港映画ファンなら思わず飛びつく豪華な監督が並んだオムニバス。曲者出演者の好演も光ります。
第1話のサモ・ハン作品から一気に心をつかまれ、以降、起伏に富んだ並びで飽きさせません。7遍もあるのに2時間弱というのも潔くて良いですね。
個人的には中盤以降のユエン・ウーピンとリンゴ・ラム、ツイ・ハークの作品は楽しみましたが、他の作品もしっかりとした作品ばかりです。リンゴ・ラムはこのエピソードが遺作になりましたし、何人かの監督に関して監督作品自体が久しぶりの日本公開という人もいるのでそういう意味でも貴重ですね。