グッド・ナース:映画短評
グッド・ナースライター3人の平均評価: 3.3
事件は恐ろしいが「こんな看護師がいたら」と思わせる名演技
入院患者の急死が続き、投与されてはいけない薬剤が点滴に混入されてたのか…という本作の基になった実話は、日本でも似たことが起こったので身近な恐怖を与える。事件を隠そうとする病院の実態も妙にリアル。ただ、展開そのものは予想どおりな印象(ゆえに見やすいメリットも)。
作品全体より強く印象に残るのは、主人公の看護師としての柔軟な立ち居振る舞い。患者の思いにさりげなく寄り添う言動にいちいち感動するが、その“さりげなさ”という、演技で最も難しい部分を的確にこなすJ・チャステインに最後まで感心しきり。
そしてオバマケアで多少改善されたとはいえ、アメリカの医療費の高さに愕然。日本はマシだと痛感させられる。
医療システムの諸問題を浮き彫りにする実録サスペンス
ある病院のICUで患者の不審死が相次ぎ、自身も病気で高額な医療費負担に苦しむ女性看護師が、やけに人当たりが良くて親切な同僚の新人男性に疑いの目を向けていく。史上最悪のシリアルキラーと呼ばれる実在の殺人鬼チャールズ・カレンを題材にした実録物だが、しかし異常犯罪者の狂気を描いた猟奇サスペンスというより、事件の背景となるアメリカの不完全な医療システムの諸問題を糾弾する医療ドラマの傾向が強い。オバマケア以前の話なので現在は改善されている点も多々あるとは思うが、医療現場の経費削減や人員不足、利益優先の病院経営などがカレンのような怪物を野放しにしたという視点は、日本人にとっても他人事ではないように思う。
演技はパワフル、アプローチは控えめ
オスカー受賞者チャステインとレッドメインの演技はさすが。とりわけレッドメインは、実は恐ろしいことをやっているのに表面はいかにもナイスガイというこの役にぴったりで、それがじわじわと迫る怖さを感じさせる。一方で、映画自体はやや中途半端。それが事実だとはいえ、彼の動機がわからず、物足りないのは理由のひとつ。また、良くも悪くもアプローチが冷静。たとえば、我が身を守るために患者の命を危険にさらした病院の腐敗がしっかり見せられるにもかかわらず、観る者に強い怒りを覚えさせることをしない。とは言っても、演技を見るためだけでも今作をチェックする価値はあるし、このふたりの共演は今後も見たい。