リトル・マーメイド (2023):映画短評
リトル・マーメイド (2023)ライター2人の平均評価: 4
カメラの動きの有機的な曲線が、別世界に誘う
冒頭近く、画面が観客を海の底へといざなっていく時のカメラの動きが、人魚が下半身をくねらせるような有機的曲線を描き、この動きに身を委ねると、もうこの世界に没入させられている。この流線形のなめらかな動きは、水中の人魚たちの髪の動きも同じ。名作アニメの実写化に際して、実写映像なら何ができるかが考え抜かれている。原作アニメの名曲シーンの、海の生物たちによる集団舞踊の実写化にも、正面から挑戦、写実性と幻想的要素の配分のさじ加減で唸らせる。
そして、物語は現代的にアップデート。ヒロインの動機、姉妹たちの設定、王子の心理などをアレンジし、現在の観客も納得のいく物語に。原作アニメと比較するのも面白い。
あれを実写にしたら、こうなる…という最高の見本では?
基本はオリジナルに忠実。しかし印象の違いでは同系列の『美女と野獣』『アラジン』を凌ぐ。何度か出てくる荒れ狂う海が象徴するように、映像としてはリアルな世界を追求。「海の生きもの図鑑」な瞬間が続くうち、フランダーらのビジュアルにも徐々に慣れていく。力が入るのは魔女アースラまわりで、もはやジャンルを超えた凄まじさ。ここまで描いた英断に感動。
ハリー・ベイリーの歌の表現力は奇跡レベル。「パート・オブ・ユア・ワールド」のシーンは歌詞とともに本能が揺さぶられ、ミュージカル映画史上に残るほど。ここだけでも観る価値アリ。その分、エリック王子は魅力薄め。細部に至る多様性表現は今っぽいが、やや過剰で賛否あるかも。