ベイビーガール (2024):映画短評
ベイビーガール (2024)
ライター4人の平均評価: 3.3
大人の女性の「性」に向き合った映画としても要注目
世間が注目する最先端企業のCEOにして、有名演出家の夫との間に2人の子供を持つ母親。公私共に充実しているはずのキャリア女性が、親子ほど年の離れた若いインターン男性とのセックスに溺れていく。『ナインハーフ』や『氷の微笑』などに代表されるエロティック・サスペンスのジャンルを、女性監督の視点から換骨奪胎した作品。女だから妻だから母親だから中年だからと、社会から押し付けられる規範に縛られて自らの性的願望をずっと封印していた女性が、湧き出る欲望に身を任せることで初めて自分らしさを手に入れ解放される。大胆で率直なニコール・キッドマンの芝居は圧巻。大人の女性の「性」に向き合った映画としても興味深い。
欲望だけでなく、強さも宿る現代の『ナインハーフ』
『ナインハーフ』のような80年代の官能ドラマを焼き直そうとするA24の試み。もちろん単なる焼き直しではなく、そこには現代性が息づく。
家庭を持つ女性CEOが若いインターンに肉欲を刺激され、主従関係が逆転する構図は、まさしく現代のインモラル。人間関係の複雑化という大人の問題も見えてきて、その中でどう泳ぐべきかを考えさせる。
後味スッキリというタイプの映画ではないが、N・キッドマンは高評価も納得の体を張った大熱演だし、彼女が体現した男性優位社会への痛烈な一撃も印象に残る。『ナインハーフ』が持っていたファッション性も息づき、多角度からなるほどと思えた。
ディキンソンのつかみどころのなさが成功の鍵
エイドリアン・ライン、ポール・ヴァーホーベンなど、エロチックスリラーは男性監督によって語られてきたが、これは女性の目線で。すべてを持っている女性の前に、ほとんど何の持たない年下の男性が現れ、完璧な生活を危機にさらしていくのだ。少年のようでいて危険さもあるハリス・ディキンソンのキャスティングが、成功の鍵。彼のなんともつかみどころのない魅力が、理屈ではダメとわかっている主人公を泥沼にはめていくという話に説得力を持たせている。このジャンルにしては予想を裏切るエンディングには意見が分かれるが、そこはハリナ・ライン監督が最初から決めていたこと。主人公の女性のジャーニーを考えれば、納得がいく。
欲望に溺れるニコールに対し、もてあそぶ余裕の注目若手がスゴい
仕事では周囲に“いけすかない”感じ満点ながら、年下男への抗えない欲求に身を任せ「そこまでやっちゃっていいの?」な姿まで披露するN・キッドマンが見どころとはいえ、相手役を務めたH・ディキンソンの、ドSさも全開に年上で家庭を持つCEOを翻弄する演技が鳥肌モノであった。そして夫役バンデラスの哀れさにしみじみ…。
愛とは?欲望とは?男女の立場はどうあるべき? もちろんそんなテーマを考えながら観る作品だが、それ以上に描写の強烈さで視覚的に支配されていく印象。13年前の『SHAME -シェイム-』の感覚も思い出しつつ、時代を経てもっとドライな味わいに。観終わった後、主人公のその後が気になって仕方なくなる。