ベネデッタ (2022):映画短評
ベネデッタ (2022)ライター6人の平均評価: 4.2
今度も観客を挑発しまくる鬼才ヴァーホーヴェン!
17世紀イタリアに実在した修道女ベネデッタ・カルリーニの実話を、ポール・ヴァーホーヴェン監督が映画化した尼僧残酷物語。女性の社会的地位が著しく低い時代。少女時代よりキリストのビジョンを見続けていたベネデッタは、真実ともウソとも知れぬ聖痕や奇跡を武器にして女子修道院内の権力を手にし、民衆からも熱狂的に崇拝されていく。果たして彼女は本物の聖女なのか、それとも封建的な男性社会が生み出した狂女なのか?聖母マリア像をディルドに見立てたレズビアンプレイなど、’70年代に人気を博したナンスプロイテーション(=尼僧ポルノ)映画のごとし。幾つになっても丸くなることを知らぬヴァーホーヴェンの反骨精神が嬉しい。
84歳にしてまだまだエネルギッシュ
近年は、優れた時代物のレズビアン恋愛映画がいくつか公開されてきた。だが、それらに見られた繊細さを今作に期待するのはもちろん間違っている。なにせ監督は大のスケベでバイオレンス好きなポール・ヴァーホーヴェンなのだ。彼の映画はしばしば論議を呼びながらも娯楽性に溢れるが、今作もそこに当てはまりそう。公開当時、こてんぱんに叩かれた「ショーガール」はいつしかコメディとしてカルト的に愛されるようになったが、いろいろな意味で抵抗を感じる人もきっといるであろう今作も、リラックスして楽しむのが正解。84歳にしてまだまだ自分のテイストを貫き続けるエネルギーを持つヴァーホーヴェンはあっぱれ。
信仰とセックスは、封建性に挑んだ彼女の武器になる!
女性を主人公に据えたときのヴァーホーヴェン作品はとりわけそうだが、とにかく安易な感情移入を許さない。本作も、またしかり。
中世という女性が生きづらい封建社会で、信仰にも同性愛にもひた走るヒロイン。そこに嘘はないが、ついでに分別もないのだから、感情移入を求める観客は困ってしまうだろう。しかしヴァーホーヴェン作品の常で、生き延びることへの獰猛な意志が見えてくる。
もちろん一方には男権社会への痛烈な批判がある。容赦ないエログロ描写も、この世が生きづらいことの表われ。許されざる生き方であっても、それを描くことには意味がある。久しぶりに強烈なヴァーホーヴェン節。必見!
オランダ時代からブレないヴァーホーヴェン節全開!
17世紀に実在した修道女をベースにしながら、そこは鳥の糞から始まるポール・ヴァーホーヴェン節全開! 何気ない顔して、さまざまな御法度をやり切るところは、中島貞夫監督から始まる東映『大奥』モノを思い起こさせる。そして、ときに『エクソシスト』ばりにドスが利いた声で、男性優位のカトリック教会に立ち向かるヒロインの凛々しい姿は、『氷の微笑』らしさもありつつ、『娼婦ケティ』などオランダ時代からヴァーホーヴェンがブレていないのが丸わかり。どこか愛嬌あるルックスのヴィルジニー・エフィラもいいが、最後はシャーロット・ランプリングの独壇場。ある意味、『最後の決闘裁判』と双璧をなすパワフルな一作だ。
衰え知らずのアナーキー・イン・ザ・ワールド
面白すぎ。「私はキリストの花嫁」と言い張るベネデッタは、ポール・ヴァーホーヴェン監督(84歳)自身が規定する様に「手段はどうあれ男性社会で本物の権力を手にした女性」、『氷の微笑』『ショーガール』『ブラックブック』『エル』の主人公の系譜を受け継ぐパワータイプの世界変革者だ。
ジャンヌ・ダルクも彷彿とさせるベネデッタは一種のトリックスターと言えるが、結果的にカトリック教会の男性優位や欺瞞を糾弾していく。監督の本質は制度的な抑圧をぶっ壊すアナーキスト。『4番目の男』や『グレート・ウォリアーズ』等との関連も興味深く、バルトロメア役のダフネ・パタキアも『ファイブ・デビルズ』と全然違う印象に驚いた!
ヴァーホーベン健在
ヴァーホーベン7年ぶりの新作は、やはりというべきかまたもや”攻めと挑発”の一作。御年84歳となるこの鬼才ですが、老け込む感じは全然ないですね。実際に起きた出来事をヴァーホーベンならではの視点で描き出します。R18指定も納得のバイオレンスとセックス、教会への挑発などなど遠慮など一切ない過激な一品です。主演のヴィルジニー・エフィラの体当たり演技も見事ですが、大ベテランのシャーロット・ランプリングがまた見事な存在感を発揮しています。キリスト教と教会の在り方にかなり切り込んでいますが、キリスト教の予備知識が実はあまり必要のない構造になっているのがまた見事です。