エスター ファースト・キル (2022):映画短評
エスター ファースト・キル (2022)ライター4人の平均評価: 3.5
殺りくホラーに終わらない、続編の頼もしき気概
前作のようなエスターのホームインベージョンをなぞるだけかも……という不安は、中盤で吹っ飛ぶ。詳しくは見て欲しいが、このヒネリはナイス。
すでに観客はこの娘が危険であることを知っているので、殺りく描写は序盤から遠慮なし。ここで彼女の手ごわさをしっかり描いていることが、“ヒネリ”後のドラマにも効いてくる。 “フリーク(=バケモノ)”と呼ばれざるをえないエスターの不幸を伝える意味でも、上手い。
インターポールのヒット曲“Evil”が、なぜその場面に!?……と思ったが、見終わって納得。前作以外の前情報を、極力シャットアウトして見てみて欲しい。
今度はエスターが絶体絶命のピンチに!?
前作で触れられたエスターの過去を描く前日譚。エストニアの精神病院を脱走したエスターが身分を偽り、4年前に行方不明となったアメリカの大富豪の娘として家族のもとへ送り届けられる。既に観客は彼女の正体を知っていることが大前提なので、早くも初っ端からエスターの凶悪なサイコパスっぷりが炸裂。このままどうやって話を進めていくのかと思ったら、まんまと居座った大富豪一家がとんでもない秘密を抱えた激ヤバなファミリーだった。なるほど、そうきましたか(笑)。まさか「エスター、頑張れ!」と応援したくなるとは思わなんだ。とはいえ、前作以上に容赦のない胸糞なストーリーゆえ、恐らく好き嫌いはハッキリと分かれるだろう。
かなり曲芸的なアレンジで攻めてくる
第1作の設定がかなり大胆で、しかも1回しか使えないオチなので、そもそも続編は可能なのかと思ったら、まったく別の角度から、かなり曲芸的なアレンジで攻めてくる。とはいえ、監督は『ザ・ボーイ』シリーズのウィリアム・ブレント・ベル、脚本家はTV版「スクリーム」やTV「ロア 奇妙な伝説」のデヴィッド・コッゲシャル。このジャンルとは縁が深い面々ならではの安定の味わい。
また、今回はエスターの心情に寄り添う描写があるのもポイント。エスターの行動は凶暴さを増すが、同時に、どこに行ってもどの集団にも一時的にしか所属することが出来ず、常に異形の者としてしか存在できないエスターの哀しみと怒りも伝わってくる。
最恐の養母との攻防戦
前作でのエスターにまつわる衝撃の真実(正体)を踏まえての前日譚。それだけに、脚本作りは困難を極めたと思われるが、前作の正統なホラーテイストとは異なる、いわゆるキャラありきのバトル系へと方向転換したのは正解といえる。そのため、冒頭の精神病院からエスター無双状態であり、13年ぶりに同じ役に挑んだイザベル・ファーマンの役者魂とシンクロしていく。彼女と対する新たな養母ジュリア・スタイルズという構図もなかなか興味深く、彼女の巧さもあって、今回のネタバレ以降に展開されるブラックコメディのような攻防戦も生きてくる。そこで流れるマイケル・センベロ「マニアック」の選曲に、★おまけ。