トリとロキタ (2022):映画短評
トリとロキタ (2022)ライター4人の平均評価: 4
ダルデンヌ兄弟による名人芸を堪能
生きるために姉弟と偽り、生きるためにドラッグ・ビジネスに手を染めて、支え合う2人。今回も手持ちによるカメラワーク&劇伴なしというダルデンヌ兄弟特有の作風によって醸し出される臨場感のなか、お互いの優しさが依存性や自己犠牲にまで発展する友情が描かれる。社会の弱者に寄り添いながらも、決して“いい話”にまとめないドライな視点は、もちろんキープ。それに加えて、移民問題に対する監督の怒りがダイレクトに伝わってくるが、その一方で八方塞がりな状況に追い込まれていく主人公に演技経験のない2人を起用した“あざとさ”が随所に見られるのは事実。それも含め、監督の名人芸を堪能する一作に仕上がっている。
今、いろんな場所で起きていることを静かに映し出す
カメラは対象に近づきすぎず、ただ目の前にあるものとして映し出す。凄惨な出来事が起きるが、それが当たり前のことのように映し出されるので、より深い衝撃を呼ぶ。
アフリカの紛争から逃れてベルギーで暮らす難民の2人、まだ幼い少年トリと、ティーンの少女ロキタ。2人は、血縁でも恋愛でもなく、ただ生きていくために信頼できる誰かが必要だからという理由で、強い絆で結ばれている。2人は生き延びようとするだけなのだが違法行為をするしかなく、それに関わる周囲の人々にも悪意はなく、ただ生き延びようとしているのみ。タルデンヌ兄弟がいつものように、今、世界中のあらゆる場所で起きている事を静かに映し出していく。
強く胸を揺さぶり、深く考えさせる
社会の弱者に寄り添うダルデンヌ兄弟が、またもやすばらしい映画を作った。今作で描かれるのは、搾取されても抵抗できない難民の少女ロキタと、彼女が守ろうとするやはり難民の少年トリ。彼女らをひどく扱うのはヨーロッパ人だけではない。移住の手助けをした黒人カップルも執拗に金を取り立ててくるし、母国にいるロキタの母も、さらには社会のシステムも優しくない。そんな政治的なニュアンスも匂わせつつ、ダルデンヌ兄弟は、メロドラマにすることなく、シンプルかつ冷静に彼女らの日常を綴っていく。だからこそ、観る者は最後にいたたまれない気持ちになるのだ。強く胸を揺さぶられ、深く考えさせられる傑作映画。
登場人物の気持ちに「させる」という点で今回もハイレベル
難民で、しかも姉弟と偽る2人を主人公にした時点で感動への「あざとさ」は予感されつつも、この監督たちの真に迫った演出によって、今回も否応なく主人公たちの目線/気持ちと一体化してしまう。ダルデンヌ兄弟の衰え知らずの意志力に抗えない。もちろん演じる2人の“眼力”を引き出す術はお手のもの。
手を染めるしかないドラッグ売買の生々しいやりとり。職場での目を疑うようなハラスメント。幼いトリの子供ゆえに安易で稚拙な行動のもどかしさ…。多くの要素がストーリーの痛切さ加速にパズルのようにピタリとはめこまれる。
そして画面を見つめながら祈りさえ捧げたくなるクライマックス。ここに激しく動揺しない人はいないのでは?