マルセル 靴をはいた小さな貝 (2021):映画短評
マルセル 靴をはいた小さな貝 (2021)ライター5人の平均評価: 4.2
SNS時代の戯画にとどまらぬプチ感動作。
ストップモーションアニメと実写を合成したいわばモキュメンタリ。マルセルは貝というより目玉おやじに近く、へんないきもの、という感じだ。幼く見えるがなかなか喋ることがこまっしゃくれて、利発でさえあるところが段々可愛く見えてくる。監督扮する動画制作者が、借家に住み着いていたマルセルとそのおばあちゃん(声はイザベラ・ロッセリーニ!植物や昆虫や詩を愛する彼女の言葉もまた滋味深い)と知り合って、動画を拡散させるというのが物語の骨子。幼いマルセルはアクシデントで離ればなれになった一族と再会するためSNSや「60ミニッツ」を利用しようとするのだが…。マカロニをラッパのように吹くマルセルが哀感を誘う。
短編より世界が広がり、ビジュアルもさらに詩的に
2010年に制作された3分の短編から生まれたこの劇場用長編版は、世界がずっと広くなり、ビジュアルもさらに向上して、詩的で美しくなった。実写とストップモーションアニメーションをミックスした映像はなんともユニークで、独自の世界観を作り出している。人間ももっと登場し、マルセルの視点から人間の良いところ、悪いところが見せられていくのも良い。ソーシャルメディアのパワーに触れられるのもモダンだ。ユーモアもあり、最後には良いメッセージもある。ただ、90分持たせるために引き伸ばされた感は否めず、とりわけ前半は話がやや薄い。それでも、かわいさと温かさ、オリジナリティに満ちた作品であるのは間違いない。
小さな小さな奇跡の軌跡
ストップモーションと実写の間、フィクションとドキュメンタリーの間を自由自在に横断して見せたちょっとした奇跡のような秀作。YouTubeの短編動画が大バズリして、それで長編映画化され、さらにA24による北米配給からオスカーノミネートまで、まさに”奇跡の軌跡”を見ているような気持になる。その広がりは劇中のマルセルの様でもあります。とにかくマルセルのキャラ付けが秀逸。”粋”という表現が劇中でも使われますが、まさにその通り。ちゃんと現実を見ていながらも独特のユーモアと豊かな想像力を持っている。ちょっと会ってみたくなる存在です。
小さくて壊れやすいものの気持ちを、ドキュメンタリーに
どこかに置かれたまま忘れ去られてしまう、小さくて壊れやすいものに、心が宿っているとしたら。そういう世界を描く作品は多々あるが、それを”ドキュメンタリー映画"という形式で描くところがユニーク。心を持つ身長2.5センチの貝殻マルセルと、彼のドキュメンタリーを撮影する人間の映像作家ディーンの、互いに近づきすぎない距離の取り方も心地よい。マルセルが祖母と2人だけで暮らす大きな家を満たす、明るい光と、仲間たちがいないために生じる漠然とした静かな喪失感のようなものの配合バランスも絶妙。本作の監督ディーン・フライシャー・キャンプが大抜擢されたディズニーアニメ『リロ&スティッチ』の実写版も見たくなる。
全身よじれるほど可愛いうえに“人間ドラマ”として奇跡の感動が
タイトルどおり体長2.5cmの貝のキャラは、静止画ではビミョーなビジュアル…だけど、動き出すと“癒し度”満点。登場の仕方からしてサプライズで、一気に作品世界に没入する。
人間が普通に生活する居住空間で、小さな肉体がどう動き回るか。PCなど人間の機器をどう使うのか。そのテクがいちいちリアルで感心しまくり!
知識や常識が人間の半分くらいのマルセルと、人間社会の関係を「価値観の違う相手を理解する」なんてすでに古臭いテーマとばかりに、対等に描いたことが本作の成功の要因かも。最後は、生きる喜びの意味さえ訴えかける。
ストップモーションと実写の最高の融合。その映像を眺めているだけで幸せ気分になれる大傑作。