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青いカフタンの仕立て屋 (2022):映画短評

青いカフタンの仕立て屋 (2022)

2023年6月16日公開 122分

青いカフタンの仕立て屋
(C) Les Films du Nouveau Monde - Ali n’ Productions - Velvet Films - Snowglobe

ライター3人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.7

森 直人

小さな市井の物語が戒律への果敢な挑戦で崇高に輝く

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

『モロッコ、彼女たちの朝』で未婚での懐妊という主題を扱った新鋭マリアム・トゥザニ監督が、再び同国社会のタブーに斬り込む傑作。ひとつの場所を核にミニマムな関係性を描き、マクロの問題を撃つ劇設計は前作と同型のヴァリエーションとも言えるが、達成度はさらに高い。

カフタンドレスの職人でありつつ、同性愛を秘めながら結婚生活を送る男性ハリムは伝統や慣習に引き裂かれた存在だ。そしてわずかな余命を自覚し、破格の愛の力を見せる妻ミナ――演じるルブナ・アザバルの気迫が圧巻。前作のパン生地に相当する、ペトロールブルーのシルク地の柔らかなテクスチャーが官能的で美しい。とりわけラストは胸震える名シーンとなった。

この短評にはネタバレを含んでいます
猿渡 由紀

まるでカフタンに刺繍をするように、丁寧な形で愛を描く

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

デビュー作「モロッコ、彼女たちの朝」でも光るものを見せたマリヤム・トゥザニが、またもや美しい作品を送り出した。まるでカフタンに刺繍をするような、細かく、丁寧な形で、トゥザニは、長年の夫婦ハリムとミナ、それぞれの本当の姿やふたりの関係を、少しずつ明かしていく。そこから見えてくるのは、観客が最初に受けた印象とはかなり違うもの。だが、ふたりの間にあるのは、とても強い、純粋な愛だ。メロドラマになりがちな話なのにそうならないのは、人物像に奥行きとニュアンスがしっかりとあり、彼らの愛が言葉ではなく何気ない日常の行動で表現されるから。モロッコではタブーとされるトピックに挑んだトゥザニの勇気にも拍手。

この短評にはネタバレを含んでいます
斉藤 博昭

愛することとは何なのか。この傑作がひとつの美しい回答を示す

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

同性間の“行為”が刑法で罰せられるイスラム教国家のモロッコで、この物語を映画にした勇気に拍手を贈りたい。「既婚ゲイ」としての主人公の日常が意外なほど赤裸々に描かれ驚いた。
夫婦と、彼らの店に雇われた青年。その関係がどう発展するかは、冒頭からある程度、3人の目配せなどで想像できるものの、徐々に相手の本心を読み取ろうとする眼差しや素ぶりに変わっていき、ゾクゾクする瞬間が何度か訪れる。演出の意図に応える俳優たちの目の演技は極上レベル。
やがて物語は、誰をどう愛するのか…ではなく、愛する相手にどうなってほしいのか、つまり愛の本質に迫っていき、青いカフタンを伴ってあまりに清冽で美しいラストへたどり着く。

この短評にはネタバレを含んでいます
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