ボブ・マーリー:ONE LOVE (2024):映画短評
ボブ・マーリー:ONE LOVE (2024)ライター4人の平均評価: 3.3
偉人ムービーとしての再現度はハイレベル
著名人を演じるという意味で、本作のキングスリー・ベン=アディルは、同種の映画の中でもハイレベルの再現度だと感じる。外見はもとより、雰囲気作り、ステージパフォーマンスまでボブ・マーリーに完全憑依。背景の70年代ジャマイカの空気もビビッドに体感できる。
基本は亡くなる前の3年を中心に描かれ、過去とも行き来するが、そこは妻との関係がメイン。一方で曲作りの苦闘や祖国の政治情勢に対する思いは、ドラマとしてサラサラと流れ、深くは切り込まれないもどかしさ。セリフも全体に説教くさい。なのでレゲエミュージックの心地良さに浸るにはいいが、稀代のミュージシャンの“魂”を伝える映画としてのカタルシスは欠乏している。
リデンプション=贖罪とともに生きる
レゲエの伝説マーリーの36年の人生のうち、1976~78年の2年間にスポットを当て、その精神や人間像を浮き彫りに。
ラスタファリを信奉し、自然体で生きるマーリー像は尊敬すべきものがあるが、一方で妻との口論を織り込み、弱さも描きこむ。聖人としてのマーリーに偏ることなく、人間マーリーを見据えている点がいい。
“贖罪が本作のテーマ”と監督は語るが、しばし挿入される、炎から逃げる少年と馬上の男のイメージがそれを象徴しているかのようで興味深い。「リデンプション・ソング」を歌う場面には、思わずグッときてしまった。
音楽が自然に発生する瞬間に立ち会える
ボブ・マーリーが仲間たちとあるいは一人で、ゆるい感じで楽器を触っていると、そこから自然発生的に曲が姿を現していく、というシーンが何度かあり、まるで音楽の誕生に立ち会ったかのような興奮を与えてくれる。この映画は彼の音楽を、ステージではなく、発言でもなく、そういう形で描く。
プロデュースにボブ・マーリーの息子や娘、妻が参加した「家族の目から見たボブ・マーリー」でもあり、仲間たちとサッカーをして走り回り、子供たちを抱きしめてひょいと持ち上げる姿が繰り返し描かれる。主演のキングズリー・ベン=アディルの身体の動きのそっくりぶりも驚異的。特にステージ上のトランス状態での動きに目を奪われる。
タイトに締めて効果的にメッセージが・・・
レゲエの神様ボブ・マーリーの本格的なものとしては初めてとなる偉人伝映画。ボブ・マーリーの家族公認ということで音楽面や内幕の部分などかなり突っ込んだシーンもあって、流石は公式作品だなと言ったところでしょう。また、描く部分と描かない部分をはっきりと分けたことで107分というタイトなつくりになって、非常にしまった映画になりました。結果としてとても映画が伝えたいメッセージが際立った印象があります。