TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー (2023):映画短評
TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー (2023)ライター5人の平均評価: 3.8
YouTuber監督と侮るなかれ!
YouTuber兄弟が監督を務めた映画と聞くと安く見る映画ファンもいるかもしれないが、これがなかなか侮れない。
その“手”を握ると何者かの霊が乗り移る、危険なゲームに熱中する若者たち。その霊が惨劇を引き起こし、恐怖を加速させる一方で、誰よりもゲームにハマッてしまったヒロインの孤独をも浮き彫りになる。彼女の孤独を緻密に描いたことで、誰かの“手”を握りたい、つながりたい欲求が説得力を増した。
恐ろしいスリラーを仕立てるのみならず、きっちりドラマを描ける新たな才能。YouTuberであると同時にホラー好きでもあるクリエイター、フィリッポウ兄弟の名は覚えておくべきだ。
依存症の本質と人間の弱さを浮き彫りにする異色ホラー
A24が北米配給したオーストラリア産ホラー。若者の間で秘かに流行っている「憑依チャレンジ」。それは交霊会で呼び寄せた亡霊を、自分の肉体に憑依させるというもの。90秒を超えたら霊に体を乗っ取られるが、そのリスクを冒しても構わないほどハイなトリップ感を味わえるという。母親を亡くしたばかりの少女が、この危険な遊びに手を出したせいで思わぬ惨劇を招く。ずばり、「依存症」に陥った人間の心理を描く作品。孤独に耐えられない。辛い現実から目を背けたい。そんな人間のどうしようもない弱さと、そこに付け込んでいく邪悪な存在。それは麻薬中毒者と売人、カルト信者と教祖の関係にも相通じる。ユニークな視点のオカルト映画だ。
ホラーのジャンルに期待の新星が登場
非常に効果的で新鮮なホラー。ショッキングな冒頭で引き込み、後にそこにつなげるやり方もうまいし、何よりエンディング!あれは今年観た中でも最も心に残るラストシーンのひとつと言ってもいいかも。わざわざ怖くて危険なことをティーンがやりたがるというのは自然で納得がいく設定。だが、主人公ミアにはもっと大きなモチベーションがあることが、映画に強い感情を与えていく。静かなシーンでは孤独、悲しみ、トラウマを繊細に表現し、取り憑かれたシーンでは完全に別物のようになってみせるソフィー・ワイルドに思いきり感心。彼女と、この映画で監督デビューを果たしたダニー&マイケル・フィリッポウ兄弟のこれからに大きく期待。
心霊ホラーでありつつ実は心理サスペンス
全米大ヒットも納得、登場人物たちの心理ドラマとしても面白い。ティーンたちが興じる自分に霊を憑依させるゲームは、ドラッグやSNSなど彼らが中毒してしまう危険な遊びのメタファーでもある。ヒロインの行動は時には身勝手にも見えるが、彼女がなぜそんなことをしてしまうのか、心理的要因も描かれていく。憑依した霊が人間をどう騙すのか、そこにも心理的駆け引きがある。
霊が引き起こす怪現象に加え、もうひとつ恐怖なのは、ゲームをする人々の現実認識かもしれない。誰かが窮地に陥っても周囲はそれを笑いながらスマホで撮影するだけ。当事者も、窮地が去るとその事態を笑う。そんな状況をリアルと感じてしまう今を再認識。
敷居の低い心霊ホラー
オーストラリア産で、北米ではA24がスマッシュヒットさせた心霊ホラー。ただ、特定の宗教観や文化、国籍に囚われておらず、個人の心の闇に基づく設定なので日本人でも素直に楽しめる一本でした。
双子のYouTuberダニー&マイケル・フィリッポウ(RackaRacka)の初長編監督作品ということで”SNSのチャレンジ企画”をきっかけに据える”らしさ”もあります。95分という短い上映時間も一気に駆け抜ける感があってよかったです。A24仕切りで続編も決まっているとのこと、この映画をどうやって展開させるか楽しみです。