サン・セバスチャンへ、ようこそ (2020):映画短評
サン・セバスチャンへ、ようこそ (2020)ライター3人の平均評価: 3.3
良くも悪くも、いつものウディ・アレン映画
華やかで伝統のあるスペインのサン・セバスチャン国際映画祭を舞台に、結婚生活の破綻しかけた高齢の映画評論家が人生の虚しさに溜息をつき、年の離れた若い女性との新たな恋の予感に胸をときめかせる。いやあ、良くも悪くもいつものウディ・アレン映画という感じですな。フェリーニやベルイマンやブニュエルやゴダールへのオマージュを交えながら描かれるのは、インテリ男の「中年の危機」ならぬ「老年の危機」。このマンネリズムを愛せる人であれば最高に心地の良い1時間半となろう。アレンの分身であるスノッブで気難しくて臆病な主人公を、長年の盟友ウォーレス・ショーンが演じているのもちょっと嬉しい。
ヨーロッパの名作映画のパロディ的シーンも楽しい
主人公が、かつて大学で映画を教えていて今は小説を書こうとしているインテリで、その主人公を演じるウォーレス・ショーンがウディ・アレン監督と年齢が近いせいもあり、かつて監督自身が主人公を演じていた自分ツッコミ映画の雰囲気がたっぷり。
また、主人公がヨーロッパの名作映画好きで、彼の実生活の下世話な状況が、彼の脳裏に名作映画のシーンそっくりの光景として現れるという設定で、フェリーニ、ゴダール、ベルイマンらの名作の有名シーンのパロディ的な光景が続々登場するのも楽しい。
主人公の自分探し物語でもあるが、さまざまな痛みはあるがそれで人生が破綻するわけでもないというあたりも大人の映画の趣。
ウディ・アレン本人の要素があちこちにたっぷり
近年の中でウディ・アレン本人が最も詰まった作品。ひと昔前だったらアレン自身が主人公モートを演じていたはず。ヨーロッパの巨匠のクラシック映画を愛し、ハリウッドを嫌い、車がパンクしても何もできず、死ぬことを異常に恐れる“歩く神経症”のモートは、アレンそのもの。モートの口から出てくる言葉はそのままアレンの言葉だ。一方で、モートが気に食わない気取ったフィリップにも、映画祭でちやほやされる監督で、ジャズの演奏もするなど、アレンの要素がある。「#MeToo」で古い疑惑が蒸し返され、キャンセルされた今、かつてのような豪華キャスト揃いではないが、十分素敵。ウィットが効いた、彼ならではの映画だ。