ゴッドランド/GODLAND (2022):映画短評
ゴッドランド/GODLAND (2022)ライター3人の平均評価: 4.3
人間は、神には決して近づけない!?
19世紀のデンマークからアイスランドへと渡る、宣教の過酷な旅。それは肉体だけでなく精神をも徹底的に痛めつけるものだった。正方形に近い昔のカメラのフレームを模した映像のサイズは、この痛々しい状況をリアルに伝える。
主人公の若い宣教師は最初こそ信仰の理想に燃えるマジメな存在に見えたが、写真撮影への執着にまず俗っぽさがうかがえ、アイスランドに着いてからは欲望やヘイトといった聖職者らしからぬ内面がジワジワと浮かび上がる。過酷な旅で精神を痛めつけられた結果か?
いずれにしても愚かな人間の寓話に変わりはなく、荒々しくも美しい自然の風景の中で、人間の弱さはいっそう際立つ。鮮烈!
「こことよそ」をめぐる余りに根深い歴史と地政学
『理想郷』ではスペインvsフランスでエグい諍いが繰り広げられたが、本作は北欧篇アイスランドvsデンマーク。キリスト教ルーテル派の青年牧師が、ヴァイキングの末裔とおぼしき現地ガイドと衝突を繰り返す。画面構成は劇中に登場するコロジオン湿板写真(ダゲレオタイプの次の形式)が意識され、日本だと幕末から明治初頭辺りの時代に当たるが、現代のバックラッシュの様相を二重写しにしているのは明らかだ。
監督は84年生の気鋭フリーヌル・パルマソン。彼は両国の中間者でもある。荒々しい自然の風景も圧巻。英国のデザイナー・思想家・詩人、ウィリアム・モリスの1871年の旅の記録書『アイスランドへの旅』も参照したい。
氷河と火山のある極寒の大地がものすごい
広大で寒く厳しいアイスランドの大地が物凄い。アイスランド出身の監督が2年の歳月をかけて撮影したこの土地は、氷河に覆われているのに、活火山がある。山頂のあたりを漂う霧。降り続ける雨。白夜の中、地平線の近くでほのかに薄紅色を帯びる空は、夕暮れなのか朝焼けなのか、判別つかない。
生きていくことが容易ではないこの土地では、人間たちの感情がむき出しになり、辺境の地に教会を建てることを命じられた牧師すら、例外にはなれない。一方、ここで生まれた子供は、動物のように土地に順応する。画角が1.33:1で画面の四隅が丸い古典的様式の映像で描かれて、風景も物語も、時代を超えた神話的なものに見えてくる。