ブルックリンでオペラを (2023):映画短評
ブルックリンでオペラを (2023)ライター4人の平均評価: 3.3
背景には俳優・脚本家たちの映画業界への危機感が見えるかも
プロデュースも兼ねるA・ハサウェイが演技巧者たちを揃え、いま中々成立し難い“良い芝居と面白い物語を備えたミドルサイズの佳品”を製作したことに好感。作風はW・アレン・スタイルの都市生活者の人間模様をベースにした、より原液に近いスクリューボール・コメディの派生形。等身大というより変な大人たちが突飛な展開を繰り広げる――その珍騒動を現在の政治的縮図に仕立てるレベッカ・ミラー監督の意図は明快かつ貴重なものだ。
P・ディンクレイジ×音楽のB・デスナーは『シラノ』からの繋がりか。B・スプリングスティーンの新曲はミラーの前作『マギーズ・プラン』に加え、M・トメイとの『レスラー』にも補助線を引ける。
ストーリーもキャラクターも良い意味でオペラチック
お決まりのパターンにはまらない、ユニークなロマンチックコメディ。ストーリーやキャラクターにやや極端なところがあるのも、オペラがメタファーになっていると思えば納得。登場するのはふた組の全然違う中年カップルと、彼らのティーンエイジャーの子供たち。どちらも妻の連れ子であるという微妙なディテールも、この物語をモダンにする。どんどんごちゃごちゃになっていく状況を、豪華キャストで、明るいトーンを保ちつつ描くのは、ちょっとウディ・アレンを思い出させたりも。映画に出てくるオペラのプロダクションも見事。エンドクレジットでかかるブルース・スプリングスティーンによるテーマソングも良い。
幸せになってほしい人たちがみな幸せになる
オペラを依頼されているのにスランプ中で何も浮かばない作曲家の夫、その妻の潔癖症すぎる精神科医、その夫が出会う恋愛依存症の小型輸送船の女性船長。登場人物がみなタイプの違う問題を抱えていて、その問題が治るわけではないのに、話がどんどんエスカレートしてとんでもない方向に向かうので笑ってしまい、最後には、幸せになってほしい人たちがみな幸せになって気持ちいい。
予想外の出来事が奇跡的な事態を生み出してしまうというストーリーに「オペラ」というモチーフが似合い、真剣なオペラの舞台が爆笑のネタになるのも痛快。タイトル通り、湾岸地区から高級住宅街まで、ブルックリンの様々な風景も魅力的。
恋愛&家族ストーリーに、ちょっぴりセレブ感覚で味付け
NYブルックリンの中でも高級住宅街を舞台にしたことで、おしゃれな大人のドラマという印象。作品に惚れ込み、プロデュースも手がけたアン・ハサウェイは、いかにもセレブ風な主人公を演じながら、他のキャストをサポートする立ち位置に徹し、嫌味がない。
生々しいのは夫の浮気のプロセス。もどかしいやりとりから一線を超える瞬間が、艶かしくも開放感バッチリで妙に共感に誘われるから不思議!
その夫が作曲を手がけるオペラが映画の中で2回登場するが、舞台装置や演出などかなり本格的で、ここは本作でも最大の見どころかも。
若いカップルの心情をもう少し掘り下げてほしかった気もするが、変に冗長にならずスッキリ観られるのも事実。